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リスクがある肝胆膵がんの腹腔鏡手術――肝胆膵がんの名医 梛野正人医師

2018/05/31
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腹腔鏡は先進医療ではない

 実は私自身、5年前に胆のうの摘出術を受けたのですが、がんの疑いもあったので、開腹手術で取ってもらいました。幸い、がんではありませんでしたが、自身が胆のうがんになったら、腹腔鏡手術を選ぶ外科医は極めて少ないと思います。一般の人は傷が小さい手術と聞くと飛びついてしまいますが、腹腔鏡手術は高度先進医療でもなんでもないのです。

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――しかし、肝胆膵がんを腹腔鏡で手術したいという外科医も多いのではないですか。

 そうです。これまでこの領域の腹腔鏡手術で保険が通っていたのは、簡単な肝切除と膵尾部切除ぐらいでした。ところが今年(2016年)4月に保険適用が広がり、難しい肝右葉切除や膵頭十二指腸切除まで通ってしまいました。

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 これらの手術は出血や膵液漏などのリスクが高く、開腹でも難しい手術です。学会内では「どうしてこんな難しい手術に保険が通ったんだ」という声が出ていますが、私も同じ意見です。しかも、診療報酬が高額に設定されているので、無理にやりたがる病院が出てくるのではないかと心配しています。

 肝胆膵がんに対する腹腔鏡手術で患者さんが亡くなったのは、群馬や千葉だけではありません。中には、腹腔鏡手術をしなければ、亡くならなかったと思える事例もあります。お腹を開ければ出血を止められるのに、腹腔鏡の器具だけで止めようとしたことが死亡事故の原因になっています。

 ですが、死亡事例がすべて公にされているとは限りません。実は、群馬大学病院や千葉県がんセンターでは、さらに悪いことがありました。日本肝胆膵外科学会で私が委員長として、両施設が発表した肝胆膵がんの腹腔鏡手術に関する学会報告の抄録や論文をすべて調べたのですが、死亡例は1つも公表されていませんでした。

「腹腔鏡手術のほうが、成績がいい傾向にあった」などと書かれているのですが、出血量や死亡数などの具体的な数字は一切出していませんでした。このような隠蔽は許されません。他の施設の死亡事例もきちんと公にしてもらって、腹腔鏡手術が本当に安全と言えるのか検証するべきです。