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東芝新会長が「3人目の救世主」になれない決定的理由

東芝新会長が「3人目の救世主」になれない決定的理由

経済ニュースの「裏」を読む

2018/03/20
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「諸君にはこれから3倍働いてもらう」

 石坂氏の社長時代、東芝は朝鮮戦争の特需もあって息を吹き返す。だが石坂氏の後、社長になったプロパーの岩下文雄氏は一流意識の強い人物で、社長室にバス・トイレを備え付け、来客用に専用の料理人を雇う贅沢ぶりだった。組織は頭から腐っていく。東芝社内に大企業病が蔓延し、業績は再び下降線をたどる。

 三井銀行などに「なんとかしてくれ」と頼まれた石坂氏は1965年、自分が相談役を務めていた石川島播磨重工業の社長である土光敏夫氏を東芝に送り込んだ。

第4代の経団連会長を務めた土光敏夫氏 ©文藝春秋

 石坂氏の「天の声」で東芝社長に就任した土光氏は、開口一番、弛緩していた東芝社員に向かってこう言った。

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「諸君にはこれから3倍働いてもらう。役員は10倍働け。俺はそれ以上に働く」

 土光氏は70歳になろうとしていたが、言葉通り夜行列車で全国30カ所以上の工場、支社、事業所を回った。多くの現場はこれまで社長が訪れたことがなく、従業員たちは「オヤジ、オヤジ」と土光氏を慕い、業績は回復に向かった。石坂氏の推薦もあり、1974年、土光氏は第4代の経団連会長に就任している。

 これが過去に2度、東芝の再建に成功した経営者たちの横顔である。経産事務次官に声をかけられ「男子の本懐」などと舞い上がってしまう車谷氏に、石坂氏や土光氏のような覚悟や度量があるとは思えない。海外原子力事業は総額1兆4000億円もの損失を生み、粉飾による利益水増しの総額は2000億円を超えている。巨額損失や粉飾に関わった役員、社員のほとんどは「お咎めなし」で東芝に残っている。

 ここまで腐食した巨大企業を立て直すには間違いなく石坂氏、土光氏並みの豪腕が必要だ。しかし車谷氏に麻生大臣を怒鳴り上げる勇気はないだろうし、「3倍働け」と社員に言えば「パワハラだ」と返り討ちにあいそうだ。東芝再建は「頭取になれなかった人」の手に負える代物ではない。

©文藝春秋

東芝 原子力敗戦

大西 康之(著)

文藝春秋
2017年6月28日 発売

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東芝新会長が「3人目の救世主」になれない決定的理由

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