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『スター・ウォーズ』の「ミレニアム・ファルコン」研究に人生を捧げた男(前編)

「ミレニアム・ファルコン」はなぜ、こんなにもかっこいいのか?

2018/03/24
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 映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場する数多くの宇宙船の中でも、ハリソン・フォード演じる「ハン・ソロ」が駆る「ミレニアム・ファルコン」は人気、知名度とも圧倒的。シリーズ最新作『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』でもその雄姿を披露し、今年6月29日に公開される外伝映画『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』では、さらなる大活躍が期待されます。

 今回は、「ファルコン」研究をライフワークとし、バンダイのプラモデル「PERFECT GRADE 1/72 ミレニアム・ファルコン [スタンダードVer.](PGファルコン)」の開発にも協力した「撮影用モデル研究家」鷲見(すみ)博氏に、「超マニアさえ知らない、とっておきの『ミレニアム・ファルコン』秘話」を語り尽くしてもらいました。単なるオタク知識に留まらない、作り手たちへの敬意と愛情に満ちた物語を、お楽しみください(前後編インタビュー。後編に続きます)。

2009年、メルボルン

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「ILMは無秩序状態。スタッフはならず者集団」

―― 鷲見さんは「ミレニアム・ファルコン」の撮影用モデルが実際に作られた場所を訪れたそうですね。

鷲見 ジョージ・ルーカスは、1977年に公開された最初の『スター・ウォーズ』(現在は『スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望』というタイトル)を製作するため、1975年にロサンゼルス郊外のヴァン・ナイスという街の飛行場近くに、「インダストリアル・ライト&マジック(ILM)」という特撮専門スタジオを作りました。今は看板屋さんになっているんですが、外観は当時とまったく同じ。現地を訪れた時には、本当にドキドキしました。

鷲見(すみ)博氏。元ILMスタジオの前で。

  この建物には左右両端にシャッターがあるのですが、「ミレニアム・ファルコン」は右手のシャッター奥にあったモデル工房で製作されました。また、右手のシャッターの前で、「デス・スター」の空中戦の一部が撮影されたり、有名な水遊び滑り込み大会が開催されたりしました。

―― 水遊び大会ですか!?(笑)

鷲見 当時のスタジオはとても暑かったらしいのですが、スタッフが旅客機の脱出用シューターを買ってきて、そこに水を張って走りこんで滑ったんです。その様子が動画投稿サイトのvimeoに投稿されているんですが、何とも楽しげで。今では超有名になった映画監督や特撮マンが無名の20~30歳代のただの若者で、水着を着て大はしゃぎしてるんです。

 現地を訪れた20世紀フォックスの幹部がちょうど出くわして「こいつら何をやってんだ……」と啞然としたそうです。スケジュールの遅れも深刻で「ILMは無秩序状態。スタッフはならず者集団」と認知され、一時は業務停止命令も出た。だけど、彼らがいないと作業がまるで進まないので、やむなく職場への復帰を認められた。

 ただ、彼らは遊びまくる一方で、嬉々として猛烈に働いていました。僕も少しお手伝いした写真集『スター・ウォーズ・クロニクル エピソード4、5、6ビークル編』を見ていただくと分かるんですが、約1.7メートルサイズの「ファルコン」は、『スター・ウォーズ』の撮影用モデル中でも際立ってディテールや塗装が凝りまくっています。特に塗装の美しさは群を抜いていると思います。

「ファルコン」下面。パネルの塗分けや雨垂れなどのウェザリングも驚くほどに色彩豊富だ。

 ディテールも、カメラに決して映らない場所にも作り込みがあります。劇中では全く見えないし、展示会で実物を前にしても見えないぐらいです。

 スタッフみんなが一種の躁状態で、持てるエネルギーと技術のすべてを注ぎ込んでいたと思うんです。

―― 「ファルコン」をはじめとする『スター・ウォーズ』の魅力的なビークル(乗り物)たちは、若い奔放なエネルギーのたまものだった、と。

鷲見 ILMのスタッフたちは、『スター・ウォーズ』の公開後に有名になり、中心人物の一人ジョー・ジョンストンは後に『ジュマンジ』や『ジュラシック・パークIII』など、ハリウッドのメジャー作品の監督を務めています。だけど当時はまったくの無名で、元気いっぱいの若者たちだった。「ミレニアム・ファルコン」の製作プロセスを探ることを通じて、彼らの青春をたどることが、僕のライフワークです(きっぱり!)。