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連載松尾諭「拾われた男」

松尾 諭
2018/03/31

松尾諭「拾われた男」 #13 「荻窪での修羅場を、暖房のある部屋でやり過ごした日」

genre : エンタメ, 芸能

 ともちゃんと出会ったのは大学2年の時だった。おしゃれさんが集まるパーティにおしゃれさんぶって遊びに行ったら、おしゃれさんたちの会話がちっとも面白くなくて退屈だなと感じていたときに友人に紹介されたのがともちゃんだった。ともちゃんは服飾のデザインをしていて、ややアヴァンギャルドな格好をしてはいたが、中身はチャキチャキの関西人で、こちらのボケに対するツッコミのキレのよさは抜群だった。それからずっと彼女と話をして、とても楽しい夜となり、あまりにも楽しかったので、また会う約束をした。日をおかずして再びともちゃんと会った時には、すっかり彼女を好きになっていたので、思い切って告白した。ともちゃんには付き合っている男がいると聞いてはいたけど、その男の話を聞けば聞くほど、ろくでもない男だったので「俺が絶対に幸せにしたる」と猛烈にアタックすると、彼女はその熱烈な気持ちを受け止めてくれた。そこから、学生生活において最も幸せな5日間を過ごしたが、6日目、ともちゃんは元彼のところに荷物を取りに行ったきり、そのまま戻ってこなくなった。8日目にやっと連絡があり、心斎橋筋商店街のドトールの2階で、別れを告げられた。思った通り元彼のもとに戻ると言うので、恥も外聞も捨てて泣きに泣き「いやや、いやや」とすがりつくと、

「あんたは太陽のような人やけど、あの人は月のような人やから、私がついてないとあかんねん。あんたは一人で大丈夫」

 全く納得できない言葉を置いてともちゃんは店を出た。それから一人、ドトールで泣き、家に帰ってまた泣き、次の日ラグビー部の連中とスノボに行くバスの中で、また泣いた。皆に慰められ、励まされ、やけっぱちになってゲレンデで手当たり次第ナンパしまくった。釣果はゼロだったけど、少しすっきりして、またひとつ大人になったのかと感じた。

松尾さん(右)は『わろてんか』に出演 写真提供:NHK

運命の告白から2週間が経った

 渋谷で運命の告白をした27歳の誕生日から2週間ほど経ったころ、彼女はバイトを休みがちになった。心配してメールをすると、話したいことがあると言うので、吉祥寺で会う約束をした。話の内容は記されていなかったし、野暮かと思い聞きはしなかったが、吉祥寺へと向かう足取りはどこか軽かった。

 彼女が暮らす荻窪からも近く、オシャレで味な店も多いので吉祥寺を選んだのだが、初めて行く場所で土地勘もなく、しかも金もないので、駅前のチェーン店の居酒屋に入った。渋谷の居酒屋で「好きです」と言ってからも、バイト先でそれまでと変わることなく会話を交わしてはいたが、改めて二人きりで話すのはあの日以来だった。あの日ほどではなかったが、緊張のせいで酒のペースは早かった。

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