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少年犯罪とエンターテインメントで対峙する

『サブマリン』 (伊坂幸太郎 著)

2016/06/07

  人気作家の多くはスタートダッシュがお上手。二〇〇〇年にデビューした伊坂幸太郎も二作目の『ラッシュライフ』から快進撃が始まったが、長篇第六作の『チルドレン』はそうした初期の傑作のひとつだ。

 家庭裁判所の調査官、陣内と武藤の仕事ぶりを描いた話だが、調査官になる前のエピソードやふたりの周辺人物を交えた独自の連作スタイルで、新鋭らしい尖った作りが光っていた。本書はその十二年ぶりの続篇に当たる。

 陣内と武藤の腐れ縁コンビは、無免許運転のあげく歩行者をはねて死なせた少年・棚岡佑真の面談に当たっていたが、彼はなかなか話に応じない。棚岡は自らも交通事故で両親を失っており、やがてその後も交通事故に巻き込まれ友人を失っていたことが判明する。その加害者の少年を、陣内が担当していたことも。

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 いっぽう武藤は、ネット上で暗躍する脅迫文投稿者に脅迫状を送り付けたあげく自首した少年・小山田俊の試験観察も担当していたが、ある日俊がネットの殺人予告者が犯行に移そうとしていると伝えてくる。

 物語は棚岡と小山田というふたりの加害者少年を軸にまず動いていくが、読みどころはやはり陣内の相変わらずの変人ぶり。武藤にいわせれば、「自信満々で何でもできるような態度で、はた迷惑な人」だが、実は棚岡の事件とは深い関わりがあり、そこから意外な一面も浮かび上がってくる。

 先の読めないプロットの妙もさることながら、有能だがへそまがり、強面だがナイーヴといった伊坂小説の多面的なキャラクター造形はやはり魅力的だ。

 十二年ぶりの続篇の題材が交通事故とはちょっと意外、もっと意表を突いてくるかと思ったが、確かに交通事故は理不尽な悲劇をもたらすし、後半さらなる犯罪も絡み、水面下に潜んでいた加害者/被害者の因果の糸が手繰られていくにつれて納得。謎の鮮やかな回収といい、やっぱり伊坂印にハズレなしだった。

いさかこうたろう/1971年千葉県生まれ。2000年『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。08年『ゴールデンスランバー』で本屋大賞、山本周五郎賞を受賞。『死神の精度』など著書多数。

かやまふみろう/1955年栃木県生まれ。コラムニスト。雑誌などで書評執筆のほか、著書に『日本ミステリー最前線』などがある。

サブマリン

伊坂 幸太郎 (著)

講談社
2016年3月30日 発売

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少年犯罪とエンターテインメントで対峙する

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