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巨人ファンは「2018年の長野久義」に何を求めるべきなのだろうか?

文春野球コラム ペナントレース2018 テーマ「長野」

「共通テーマは長野」

 先日のよく晴れた午後、近所のフレッシュネスバーガーでスポーツ報知を読みながら遅い昼食を取っていると、文春野球の村瀬コミッショナーからの原稿テーマ指定メールを受信した。えっマジか……思わずスマホの画面を見つめ、テリヤキチキンバーガーを持ったまま固まる俺。「長野」。なぜこのタイミングで売り出し中の吉川尚輝でも岡本和真でもなく、あえて不振に喘ぐ長野久義なのか……。重い、テーマが重いよ。でも美味いよテリヤキチキン。なんつってそのままなんとか食事を済ませると、放心状態のまま仕事場へ戻り、パソコンに向かうことにした。

長野久義がプロ9年目で直面する危機

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」

 かつて小説家の村上春樹はデビュー作『風の歌を聴け』の中でそう書いた。最近の巨人戦を見ていると、ふとこの言葉を思い出す。強引に野球界に置き換えると「完璧な未来など存在しない。完璧な過去が存在しないようにね」となる。ファンは若手選手のプレーを見て、様々な未来を妄想する。だが、夢見たチームが実現したとして、どこかの段階でこれまでの功労者たちに見切りをつけなければならない。例えば、今の巨人では新世代の吉川や岡本がスタメン起用されると同時に、阿部慎之助や長野といった去年までの不動のレギュラー陣はベンチに座る機会も増えた。悲しいけど全員揃ってハッピーが許されないのが弱肉強食のプロ野球だ。

 今、長野久義はどんな気持ちでプレーをしているのだろうか? 09年秋に悲願の巨人ドラ1指名を受け、1年目からレギュラー定着すると新人王、2年目にセ・リーグ首位打者に輝き、3年目には最多安打のタイトルを獲得。プライベートでは12歳年上の女子アナとの交際発覚。いや最後の情報は別にいらないんじゃ……と突っ込む隙すら与えない完璧なキャリアだ。なにせ入団から5年間の通算安打数767安打は、日本人選手としては長嶋茂雄や青木宣親を抑えてNPB歴代最多記録となる。そんな異常な完成度の高さを誇っていた25歳の超即戦力ルーキーは、いまや33歳のベテラン選手となった。14年オフの右膝と右肘手術以降は走攻守に精彩を欠き、今季は「7番ライト」で開幕スタメンも6試合目に先発落ち、打率1割台で最近は亀井善行や中井大介を優先的に起用するケースも目立っている。いわば、長野はプロ9年目にしてレギュラー剥奪の危機に直面しているわけだ。

9年目にしてレギュラー剥奪の危機に直面している長野久義 ©文藝春秋

長野の不振と、外野手不足に悩むチーム事情

 これが例えば、阿部慎之助の場合ならファンも心の準備をする時間があった。満身創痍の身体で捕手から一塁手へ転向。気が付けば39歳となり、21歳の岡本にポジションを奪われ……いや、イメージ的には「奪われた」というより、これだけ年齢が離れていると巨人のファーストを「継承した」という表現がしっくり来る。言うなれば、そこにベンチとファンが感情をワリカンできる一種のストーリーがあるのだ。

 だが、長野の場合はまだ33歳で、チームに存在を脅かす若手外野手がいるわけでもない(若いイメージがあった中井ですら今年で29歳だ)。正直、物足りないけど代わりもいない的な倦怠期のカップルみたいな不完全燃焼の日々。本当ならば死球による骨折で離脱した1番センター陽岱鋼の代役は長野! と唐突に水道橋駅ホームで絶叫したいところだが現状では難しい。19日の2軍ロッテ戦では本職は内野手のルーキー田中俊太が試験的にセンターで先発出場するケースもあった。もちろん近年の偏ったドラフト戦略の弊害もあるが、皮肉にも今の巨人1軍が最も欲しているのが「2010年の長野久義」のようなスケールを持った、20代中盤のイキのいい外野手なのである。