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自分のほしい未来をつくる寄付が当たり前の社会へ

日本の大学が置かれている環境は厳しい。国からの助成が縮小し、世界の大学との教育格差が拡大すると危ぶむ声もある。そうした中で、大学への寄付は社会にどんな意義を持つのか。三菱総合研究所理事長で、東京大学元総長の小宮山宏氏に話を聞いた。

三菱総合研究所理事長 小宮山 宏氏 1944年生まれ。東京大学大学院工学系研究科長、副学長などを経て、2005年から4年間28代総長を務める。寄付による1000億円基金の創設を提唱し、寄付文化の醸成のために尽力する。2009年に退任後、三菱総合研究所理事長、東京大学総長顧問に就任。
三菱総合研究所理事長 小宮山 宏氏 1944年生まれ。東京大学大学院工学系研究科長、副学長などを経て、2005年から4年間28代総長を務める。寄付による1000億円基金の創設を提唱し、寄付文化の醸成のために尽力する。2009年に退任後、三菱総合研究所理事長、東京大学総長顧問に就任。

──東大総長時代にいち早く寄付の受け入れ体制を整えました。きっかけを教えてください。

寄付は、社会が大学への意思を示す媒介となる

小宮山 私が総長だった2005年の東大が受けていた国の運営交付金は約900億円。一方でハーバード大など世界のトップ大学は新規研究投資だけでも年間数百億円、1000億円という巨額の資金を投じていました。とりわけ米国は寄付を生かした基金のおかげで財政基盤が厚く、一人勝ち状態。日本は国からの支援はより厳しくなる傾向で、格差は開いていくと予想されました。 だからこそ、東大では自主財源による1000億円の基金創設を目指して寄付の募集を始めたのです。当時は「1000億円規模はできるわけがない」と言われていましたが、世界ではすでにそれくらいを目指すことは普通だったのです。

──世界の状況を教えてください。

小宮山 米国は公立大学を含めて寄付金集めに熱心です。十数年前に世界の情勢を調べたところ、ハーバード大学は4兆円、イェール大学は3兆円規模の基金を運用していたと記憶しています。毎年4〜5%は運用益が上がるためそれを研究開発に充てる方針です。ハーバードであれば年間2000億円程度は見込めたわけです。加えて、学生の授業料や国からの研究費なども入ってきます。これほどの寄付金を集められるのは、寄付者との対話に労を惜しんでいないからです。例えばハーバードでは、学長がどんな情熱を持っているのかを伝えるために「ファンドレイザー」という寄付の専門職員を雇用しています。当時で約400人、現在では750人に上ると聞いています。

──これまで日本で大学への寄付が米国ほど盛んではなかったのはなぜでしょうか。

小宮山 かつての日本には、国が教育や文化を支える良い時代がありました。しかし今や成熟した先進国になり、年間予算は百兆円程度で頭打ちです。一方で社会保障費や国債費などは年々増加しています。その結果、若い世代への投資が制限されているのです。社会学者はこれを世代間契約の破綻と指摘しています。この現実に向き合ったとき、大学も自ら汗をかかなければならないでしょう。手段は主に四つあります。調達の合理化、産学連携の深化、資産運用による収入の増加、そして寄付による収入の確保です。

──大学が寄付による独自財源を持つ利点をどうお考えですか。

小宮山 国から経済的な面で自立するということは、悪いことではありません。大学には本来、政権と一線を画して長期的な視野や公正な感覚を保ち、正しいと信じることを追求する役割があります。自由や自治を確立してこそ、地域資源を生かした独創的な研究や世界に伍する優れた開発などが可能になります。 例えば今、大学は研究費を獲得するために国が求める方針を経営や研究に取り入れようと努力しています。しかし、真に独創的な研究は必ずしも国の決めた方針に当てはまるものではありません。学術や文化を守るために、寄付は不可欠なのです。