昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載THIS WEEK

麻生太郎、小沢一郎、菅義偉が追悼文を寄せた官僚の生き方

source : 週刊文春 2016年12月22日号

genre : ニュース, 働き方, 政治

ラグビーの清宮克幸氏らも寄稿(写真は同書より)

 麻生太郎、小沢一郎、小渕優子、太田昭宏、古賀誠、菅義偉、二階俊博、野田佳彦……。政界の錚々たる面々が原稿を寄せた1冊の本がある。タイトルは『正義とユーモア』。市販はされていない。

 昨年この世を去った香川俊介氏を偲ぶ追悼文集だ。香川氏は昭和54年に旧大蔵省に入省し、財務省事務次官に上り詰め、大物官僚として知られた。

 昨年の七夕、退官の日を迎えた香川氏は財務省から病院に向かった。そのまま8月9日、逝去。享年58。

 文集は、長年の友人の神藏孝之イマジニア会長が発起人となり各界で親交のあった人に呼びかけたところ、単行本にして240ページを超える、異例の追悼文集となった。

 秘話も明かされている。菅官房長官によれば消費増税を巡り、次官だった香川氏とこんなやり取りがあったという。

〈ある日、官邸に呼んで、「消費税の引き上げはしない。おまえが引き上げで動くと政局になるから困る。あきらめてくれ」と静かに話をしました。香川はつらかっただろうけど、「長官、決まったことには必ず従います。これまでもそうしてきました。ですが、決まるまではやらせてください」と言っていました〉

 小沢氏は、香川氏への思いを吐露している。官房副長官時代の小沢氏を秘書官として支え、「小沢氏に最も近い官僚」と見られてきた。

〈ただ、それがゆえに彼に大きな負担と迷惑をかけてしまったのではないかという思いが、常に私の「心のしこり」としてあった〉

 だが、仕事ぶりで評価を受けた香川氏は次官に就く。

〈一番「心の荷」が下りたのは実は私ではないだろうか〉

 開成高、東大法学部、旧大蔵省というエリートのイメージとは一味違う「人間・香川」も綴られている。

 高校時代、父を亡くし、大学受験の日も自身と妹の弁当を作ってから向かった。B級グルメが大好きで、1000円前後のランチを探し歩いた。早世した他省庁の官僚の実家を折に触れ訪ねていた。同期の結婚式の祝辞で下ネタギリギリのあいさつで会場を大爆笑に包んだ。偉ぶらず「頭は下げるためにある」と言い、人前で他人を叱る上司や先輩を批判していた――。

 文集から浮かび上がるのは、常に国家のあり方を考えながら、その軸足は「普通の人たちの世界」にあった香川氏の生涯である。