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占い師・しいたけが芥川賞作家・村田沙耶香を占ったら……実践編

話題の占い師が、芥川賞作家の現在と未来を占う

note

予測不能な展開の物語が生まれる理由

しいたけ うーん、面白いですね。人って共感と無関係でいられないと思うんです。商品のコンセプトやCMに共感してそれを買ったり、経済活動を営む大人ならなおさら。

『コンビニ人間』(村田沙耶香 著)
『コンビニ人間』(村田沙耶香 著)

 小説の場合だと、たとえばこういう展開にしたら読者は感動して、共感してくれるだろうなとか、そういうこともありうると思うんですが、『コンビニ人間』にはおそろしいほどそれがありませんでした。10分前まで店長に共感して「白羽さんみたいな人困るよなぁ」と思っていたのに、白羽さんが主人公とくっついたと知った後の店長は噂話ばっかりして、「こんなに面倒くさい人だったのか」と思わされる。どこか子供の話を聞いているような感覚に似ていたんです。あれ、さっきのお姫様の話、どこいった?みたいな。

村田 ああ、ふふふ(笑)。

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しいたけ 子供の話ってぜんぜん先が読めないんだけど、聞いていてとても楽しい。そのような物語の紡ぎ方を、ぜひずっと続けて行ってほしいです。ってこれ、占いというより、一ファンとしてのお願いみたいですが(笑)。

村田 そう言ってもらえると、いちばんありがたいです。狙って書くということができず、登場人物が勝手に動くということが、すごくよく起きるんです。

 私は子供時代から小説を書いていて、子供だと本当にそうなってしまうんです。もう死ぬはずだった人がすごく元気になって主人公みたいになったりして、ぜんぜんコントロールできない。大人になった今もそれが変わらなくて、白羽さんも、もともとはあんまり出てくる予定の人じゃなかったりとか。

しいたけ えー!!

©榎本麻美/文藝春秋

村田 構成もあまり考えていなくて、人物が勝手に動き出す感じです。私自身もラストシーンがさっぱりわからない状態で、ひっぱられて書いているような状態が楽しくて、好きなんです。

しいたけ あの、しっかり者の店長や、仕事の出来る先輩の泉さんの「いじわるさ」というのも、はじめはわかっていなかったんですか?

村田 はい、最初はあまりいじわるな人じゃなかったんですけど、主人公と白羽さんがああなってから、意外といやな面が出てきて、噂好きだし……。あの2人、噂話しているときはぜんぜん仕事していないですからね。「理想の店長だと思ったけど、下世話な部分があったんだなぁ」って、書きながら思っていました。

村田さんの魅力は「新宿ゴールデン街」に似ている?

しいたけ 村田さんが「これはどうなの」と、お聞きになりたいことはありますか?

村田 しいて言えば……こういう人はこのまま海外に行っても大丈夫ですか? 自分の小説が翻訳されるタイミングなので、海外でもこのままでいいのか、と。

しいたけ 村田さんにとっては、「どこに行っても海外」みたいなところはありませんか?

©榎本麻美/文藝春秋

村田 あ、はい。

しいたけ 「文化」ってそもそも異物だと思うんです。アジアから見たアメリカの文化は異物だし、逆もそうだし、同じ国にいても他者同士の文化はお互いにとって異物です。ただ、今って「そもそもルールが違いますから仕方ないですよね」と理解が深まったりして、「異物性」が見直されてきている流れがあります。

 東京を訪れる外国人観光客が、ガイドブックに載っている観光名所ではなくて「新宿ゴールデン街に行きたい」と言うような。村田さんはそれに近い感じです。わかりやすいザ・ジャパニーズではないかもしれないけれど、「ゴールデン街性」がある。

 だから、結論としては「そのままでいてください」と。

村田 それは、うれしいです(笑)。

しいたけ ゴールデン街の魅力は、世界で通用しますからね。ゴールデン街で「日本らしさ」を出そうと欲を出して三味線を弾き始めると、なんか違うじゃないですか。でも、ウクレレを弾きたくなったら、弾けばいいと思うんです。

村田 ああ、なるほど(笑)。

©榎本麻美/文藝春秋

しいたけ ということで、時間が来てしまいました、すみません今日、なんかいろいろ脱線しちゃったりして。

村田 いえ、楽しかったです。

 

占い対談を終え、お2人の感想

しいたけさん

 今回、知り合いの編集者の方から「芥川賞作家の村田沙耶香さんと対談してみませんか?」と言われ、村田さんの『コンビニ人間』やエッセイなどを読ませて頂いてお会いできるのをとても楽しみにしていました。

 僕は学生時代からずっと長い間ファミレスでバイトをしていた人間で、ファミレスの控え室って自分の人生の中で一種「聖地」にすらなっています。ですから、村田さんとは「コンビニやファミレスの控え室で雑談する」かのようにひたすら自分が楽しんで話し込んでしまいました。
また是非お話ししたいです。ありがとうございました。

村田沙耶香さん

 とてもほんわかとした優しい雰囲気の中で、ほのぼの暗いお話をしたり占っていただけて、とても楽しかったです。いろいろなことを熟考なさっている方だなという印象で、とてもお話が興味深かったので、いつかまたいろいろお聞きしたいです。

 

©TAROUT

しいたけ
占い師。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究するかたわら占いを学問として勉強。2014年から「VOGUE GIRL」で連載開始、毎週月曜更新の「WEEKLY! しいたけ占い」で注目を集める。「しいたけ」という名前の由来は、唯一苦手な食べ物が「しいたけ」であり、それを克服したかったから。著書に『しいたけ占い 12星座の蜜と毒』(KADOKAWA)、『しいたけ占い  12星座でわかるどんな人ともうまくいく方法』(マガジンハウス)がある。

 

村田沙耶香
小説家。1979年、千葉県生まれ。玉川大学文学部卒業。2003年「授乳」が第46回群像新人文学賞優秀作となりデビュー。09年『ギンイロノウタ』で第31回野間文芸新人賞受賞。13年『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞。16年『コンビニ人間』で第155回芥川龍之介賞受賞。


写真・榎本麻美

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2017年12月15日 発売

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