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池上彰氏「言論の自由がない国ほど、面白い政治風刺が生まれる」

池上彰×福田裕昭(テレビ東京プロデューサー) #2

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テレビマンとしては内心ビビっているんです

福田 すべて日本から遠い話ですから、難しいテーマの番組を作ったら視聴率を取れないんじゃないかと思って、テレビマンとしては内心ビビっているんです。ところが池上さんの番組は、難しい話を易しい言葉で表現することで、難しい話が一気に面白くなる。一緒に仕事をしている間に「池上さんとなら、政治に関心のない人たちにも面白いと思ってもらえる選挙特番をやれるのではないか」と思い、「池上彰の選挙ライブ」を企画しました。

 

池上 私が福田君と初めて会った当時、彼は政治部長という肩書きでした。私からしてみると、政治部の記者というのは他の連中を人とも思わないような人ばかり。その政治記者のトップだというのに、こんなにも柔軟で、人の意見を聞きながら何かを一緒にやっていこう、というマインドを持った人に初めて出会ってびっくりしたんですよね。「この人となら色々やれるのかな」と思いましたね。

福田 それは、大マスコミの政治部長とばかり付き合われているからだと思うのですが(笑)。2012年12月の衆院選以降、池上さんに出演していただいた選挙特番の視聴率は上昇して、2014年12月の衆院選では2桁の11.6%を記録して在京民放1位になりました。池上さんが“池上無双”と呼ばれるようになり、「これはすごいことが起きている。きっとテレビが変わったんだな」と思いましたね。

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新番組は「ジャーナリストとしての集大成」

――4月から始まった新番組「池上彰の現代史を歩く~Walking through Modern History~」(テレビ東京、日曜20時~)は池上さんにとって「ジャーナリストとしての集大成」になるものだと伺いました。

©テレビ東京

池上 ちょうどNHK「週刊こどもニュース」をやっていた頃に、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)を書いて、それ以降私のライフワークは「現代史」だと考えるようになりました。日本の学校教育では、第二次世界大戦の前ぐらいでだいたい終わってしまって、その後の現代史を全く学校で習わないんですね。教科書をさっと読むだけで終わってしまって、みんな現代史のことを知らない。しかし現代史を知らないと、今のニュースは理解できません。その穴を埋める仕事が、私のライフワークだと思ったんです。

 それを活字でやってみようと思ってNHKを辞めました。中東調査会に入り、取材でイランやパレスチナに行くうちに、テレビ東京をはじめとした民放から仕事が来るようになって、「現代史を映像化する方法があるんじゃないか」と思い始めたんです。

 NHK「映像の世紀」は素晴らしい番組ですが、現地を歩きながらわかりやすく解説をすれば、もっと見てもらえるんじゃないかなと。私自身が忙しくなってしまうんだけど、いつまでもテレビに出演できるわけではないし、「これが私にとっての集大成なんだ」という思いがあります。実は、それくらいの気構えで取り組んでいるんですよ。

 

福田 池上さんの新番組ということで、オールVTRで新しい試みを色々しています。

池上 ドイツ取材では「ベルリンの壁」の跡で授業をすることになっています。日曜のゴールデンにこういう番組をやろうっていうのは、テレ東も冒険だよね。

福田 難点は外での取材・撮影が中心なのでちょっと寒いということでしょうか(笑)。池上さんが訪れた国、すごい数ですよ。いくつに達しましたか。

池上 はい、国と地域の数は84です。その一方で「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ系)のイモトアヤコさんは、この前100カ国を突破したそうです。彼女は南アフリカの中にある小さな国、レソトが100カ国目だったとか。

福田 あと16カ国ですね。新番組「池上彰の現代史を歩く」では、今起きているニュースと現代史を結び付ける橋渡しを池上さんにやっていただきます。そして日本から非常に遠い場所の話を取り上げて、いかに料理していただけるか。イギリスの北アイルランドとアイルランドの国境を歩いて欲しいし、アフリカ・ルワンダのフツ族とツチ族の人たちにも会ってもらいたいですね。日曜ゴールデンで遠い世界の現代史を題材にできるのは、池上ワールドの真骨頂だと思っています。

池上 はい。数字がついてくるかどうか、低迷したらさすがに営業的にやっていけないでしょうから、いつまで続くやらわかりませんけど(笑)。ライフワークの最後の仕上げとして、取り組みたいですね。

写真=末永裕樹/文藝春秋

池上彰氏「言論の自由がない国ほど、面白い政治風刺が生まれる」

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