昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

連載クローズアップ

「15歳で輪姦された女性の夫を、どう演じるべきか」

佐野史郎――映画『私は絶対許さない』

 

「僕は古事記になじみが深い出雲の地、島根県松江市の出身です。古事記に残る神話は実際の出来事を投影した物語かもしれません。今回の映画も実際に起きた事件が、『私にはこう見えた』という、主人公の主観的な視点で進んでいきます」

 4月7日より全国で順次公開される映画『私は絶対許さない』は、東北地方に住む中学3年生の少女が車で連れ去られ数人の男に輪姦される事件から始まる。原作は雪村葉子さんが自身の実体験を綴った『私は絶対許さない 15歳で集団レイプされた少女が風俗嬢になり、さらに看護師になった理由』(ブックマン社刊)。この手記を基に映像化したのが、精神科医でもある和田秀樹監督だ。

 佐野史郎さんはこの作品で大人になった主人公・葉子の夫・雪村を演じている。

「はじめに台本を読んだとき、妻に対し雪村が放つ言葉や、にわかに変化させる性癖などに大きな違和感を覚えました。一体これは何だろう、と。そこで気がついたのが、実際起きたことから客観性を排除することで、ものごとの見え方は変わるのかもしれないということ。監督の撮影意図はそこにあるのではないかと」

 男たちに性的行為を強いられ、家族の無理解に傷つき、そしてヤクザから援助交際を求められる葉子。精神科医の和田監督は、観客に被害者のPTSDやトラウマ症状を疑似体験させることを試みている。ドキュメンタリーのように客観的な視点を入れないのは、性的被害を受けた人がどのように価値観や人格を変容させていくのかを表現するためだ。

 そのため、佐野さんは自身の役柄の心情をできるだけ排除し、妻の眼に映る“主観的な人格”を演じたという。

©「私は絶対許さない」製作委員会

「雪村にすれば“そんなことは一言も言ってない”ということばかりかもしれない。でも葉子のなかではそう記憶されている。だから例えば棒読みのような語り口にして、現象だけが伝われば良いという想いで臨みました」

 葉子は全身に整形を施して新しい自分を手に入れる。しかし風俗店のスカウトによって、再び自らの意思とは違う人生へと流されてしまう。

「マスメディアがある人物を取り上げる時、読者や視聴者のイメージがどんどん固定化されるよう情報がコントロールされていると感じるんです。でもそれが例えば“文春砲”で壊されたとする(笑)。書かれた方は大変だろうけど、主観という虚像から解放されることで、実像をはっきりさせることができるかもしれない。自分の認識と他者が言う“事実”との間にズレを感じることは誰にでもありますよね。この映画は、観る人にとって『何をもって事実と呼ぶのか』を問い直すきっかけとなる作品なのかもしれません」

さのしろう/1955年島根県出身。75年劇団シェイクスピア・シアターの創立に参加。唐十郎の状況劇場を経て86年『夢みるように眠りたい』で映画主役デビュー。映画、ドラマ、舞台のほか、小泉八雲作品の朗読も続けている。現在放送中の大河ドラマ『西郷どん』では井伊直弼役を務めている。

INFORMATION

「私は絶対許さない」
出演:平塚千瑛、西川可奈子、隆大介、佐野史郎ほか
監督:和田秀樹 原作:雪村葉子 脚本:黒沢久子
4月7日(土)テアトル新宿ほか全国順次公開
http://watashihazettaiyurusanai.com/