文春オンライン

連載ことばのおもちゃ缶

辞書を使ってことばの水切り(2)無限の可能性を持った、ことばの海を泳いでみよう

2015/02/22

source : 本の話

genre : エンタメ, 読書

note

どうるい【同類】そのものと同じ種類。〔広義では、仲間をも指す〕

 ……これはちょっとセレクトに失敗したかもしれない。しかし今更引き返すわけにはいかない。僕の前には、無限の可能性を持った言葉の海が広がっているはずなのだ!

しゅるい【種類】互いに似ているものを、ほかのものから区別してまとめた一まとまり。

まとめる【纏める】纏まるようにする。

 なんだそりゃ! もはや何も言ってねえじゃねえか!

まとまる【纏まる】①個個のものが集まって、全体として一つ(の集まり)になる。「三十人纏まれば安くなる・纏まった〔=かなり多い〕金額・クラスがよく纏まっている」②(統一の無かったものが一つになり)望ましい結果になる。「意見が―・論文が―〔=完成する〕・縁談が―〔=成立する〕」

のぞましい【望ましい】(形)それが実現することを積極的に期待する状態だ。

せっきょくてき【積極的】物事を進んで行う様子。↔消極的

すすんで【進んで】(副)自分から積極的に何かをすることを表わす。「―参加する・―いやな仕事を引き受ける」

 ああ、また同語反復への獣道を歩んでゆく気配だ。結局「積極的」ってどういうことなんだろう……。

ADVERTISEMENT

じぶん【自分】行動したり何かを感じたりする、当のその人。「―でもおかしいと思った」

とうの【当の】(連体)(今問題になっている)その。「―本人」

その【其の】①話し手から見て、聞き手の方により近いと意識される事を指し示す言葉。②直前に述べた物事を指し示す言葉。

 終わりそうで終わらない。本当に詰まってゆくにはまだまだ時間がかかる。これがこのゲームが飽きない理由だ。言葉って本当に海だなあ。底が見えそうで決して見えない。まだまだ、一生かかっても泳ぎ切れないんだろう。だからこそ、僕は「ルール」という浮き輪で溺れないようにつとめているのだ。

 僕はゲームの本質は「ルール」にあると思っている。ルールを設定し共有することで、コミュニケーションを生み出してゆく。それが娯楽と遊技性の源なのだ。サッカー選手が手を使わないことに異議を申し立てる人がいたら、それは完全におかしい人だろう。労働の現場では手を使わないことは不合理な制約かもしれないが、ゲームの空間にその論理は通用しない。ゲームの空間で一番重要なことは、効率よく生産することではなくて、みんなが面白く楽しめることだ。そして言葉というアイテムをゲーム的空間に置いて動かしてみる試みのことを、文芸というんじゃないか。

 この「ことばの水切り」をはじめ僕が考えてきた言葉のゲームは、誰も遊び相手のいない一人ぼっちの日々の中で生まれてきた。けれど、僕はルールを共有してのコミュニケーションの可能性を捨ててはいなかった。むしろ、いつだってたまらなくなるくらいそれを希求していた。ゲームとして進化していけばいくほど誰にも理解されにくくなるのはわかっていた。でもいつかは、この何の役にも立たないくだらないゲームの「ルール」を、共有してくれる人が現れるかもしれない。そう思って薄っぺらい辞書のページをしゃこしゃことめくってきた。

 だから僕は今まで誰にも言えずに楽しんできた暗い一人遊びを、これからどんどん放出してゆきたいと思う。言葉という空間に投げ込んだこの「石」が届いてくれる人が、一人くらいは現れてくれたら、最高にうれしいから。

辞書を使ってことばの水切り(2)<br />無限の可能性を持った、ことばの海を泳いでみよう

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

本の話をフォロー