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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

桜庭 一樹
2018/04/08

『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

有機的な都市N.Y.

 超絶に方向音痴で、犬の散歩に出かけても道に迷う。犬連れだから近所の人だろうと思われて、誰かに道を聞かれては、「わたしも迷ってるんですよ」と、そんな毎日だ。

 それでも、N.Y.に行ったときには、思ったほど困らなかった。格子状に縦横の線を引いた“方格設計”で作られた町なので、縦横の線の数字さえわかれば、英語が読めなくてもだいたいの場所に着ける。例えば五Av.一二St.とか。移民の多い街らしい工夫なんだな、と感心したのを覚えている。わかりやすいし、古い街並みも素敵だったなぁ。

 N.Y.に方格設計を取り入れたのは、一九世紀初頭に発足した一八一一年委員会なんだけど、それから一五〇年後の一九六一年、建築雑誌記者のジェイン・ジェイコブズが出版して一大旋風を起こしたのが『アメリカ大都市の死と生』だ。彼女は一部でスラム化が進み老朽化したN.Y.の再開発計画に対し、自分なりの提案をした。この映画は、彼女の活動と、都市の変化を巡るドキュメンタリーだ。

©Library of Congress

 当時、コーディネーターが推し進めたのは、スラムを一掃して巨大団地を建設し、高速道路を通して渋滞も解決、という計画だった。でもジェインは、住人として、「人も建物も新旧入り混じり、多様性があって」「常に人目という民間の警備があって」「誰も孤立しないように溜まり場も残して」「たくさんの曲がり角があり、人と人が出逢える」という、いろんなものが有機的に入り混じった“生き物としての都市”にすべしと主張した。

 昔からの街を生かしつつ、住みよいように“リノベーション”するという、ジェインの生活哲学をもとにしたのが、わたしが素敵だと思ったあのN.Y.らしい。

 オリンピックを二年後に控えて、いままさに変わっていく東京にいることもあって、興味深かったです。わたしたちの街も居心地良くリノベされてほしいなぁ……。

INFORMATION

『ジェイン・ジェイコブズ:ニューヨーク都市計画革命』
4月28日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
http://janejacobs-movie.com/