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鏡に口紅で「疲れた」 44歳の男は一家心中するために結束バンドを購入し……

 人は最期を迎えようとするとき、何を、何のために遺そうとするのか。3月30日朝、遺体で見つかった3人の男女が住んでいた東京都板橋区の自宅には、鏡に口紅で「疲れた」と一言だけ、書き残されていたという。

 男女は板橋区の職業不詳、佐々木真一さん(44)、その母親の美知子さん(67)と父親の信男さん(69)。警視庁捜査一課は真一さんが無理心中を図ったとみて調べている。警視庁担当記者が語る。

「北区の駐車場に止めた乗用車で、母子がそれぞれ首を結束バンドで縛られた状態で見つかり、警視庁が捜査を進めたところ、さらに2人の自宅から同じく首を結束バンドで縛られた状態の父親が見つかりました。すわ大事件か、となりましたが第三者の介在は確認されず、無理心中の線が濃厚に。捜査の結果、当日午前2時前ごろに豊島区のディスカウントショップで真一さんが結束バンドを購入していたことや、家族が病気の父親の介護に苦しんでいたことも判明しました」

母子が発見された北区の駐車場 ©文藝春秋

 真一さんの首には複数の結束バンドが巻かれ、美知子さんは毛布でくるまれた状態。その間には、結束バンドで首を絞められた愛犬が挟まれて息絶えていた。

 捜査関係者は「園芸など広い用途に使われ、どこでも手軽に買える結束バンドは意外と強力。一昨年、神奈川県相模原市の障害者施設で19人が殺害された事件でも、犯人が施設の関係者の行動を封じるために効果的に使われた。途中で後戻りできないよう、自殺に使われる例も実は少なくない」と話す。

 真一さんは働き盛りの40代。この世代こそ、親の介護の負担がかかり始める世代でもある。政府の統計によると、12年の時点で介護をしながら働く人は290万人で、うち40〜60代が8割だ。警察庁は07年以降、「介護・看病疲れ」による殺人を統計に追加。検挙済みの事件をみると16年までに460件。また、厚生労働省によれば介護・看病疲れに伴う自殺者は17年だけでも206人に上った。

 松任谷由実はヒット曲「ルージュの伝言」で男の浮気をユーモラスに歌い上げたが、鏡に遺された「伝言」からにじむのは、出口の見えない社会への重い告発なのかもしれない。