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「知っている」というタグさえあれば

瀧本 もう一つ、教養という力が発揮されるのは社交の場においてでしょうね。

鈴木 私もそう思います。自分の遠くにあるものを知っておくことの大事さって、結局コミュニケーション能力なんだって。

瀧本 昔、中国の企業の人たちと食事する席があったんです。その中で、突然彼らが「ボクサーリベリオン」って言葉を使う話題をし始めた。

鈴木 ボクサーリベリオン、ですか? どういう意味だろう。

 

瀧本 世界史で出てくる「義和団の乱」のことです。たまたま僕は高校のときにイギリスの教科書で学ぶ世界史っていう謎の授業を受けていて、その言葉を知っていた。それで彼らの話に乗っかることができて、盛り上がれた。ここで大事なのは「お、意外と知っているな」「我々を理解しようとしているな」っていうメッセージを渡せたことなんです。

鈴木 コミュニケーションって英語、中国語、日本語のような言語だけではなくて、「知っている」ということで成功することがあるんですね。私は3月にドイツへ短期留学していたんですが、理解するということは言語だけの問題ではないって実感しました。留学プログラムの合間に自由行動の時間もあるのですが、私のドイツ語が流暢ではないとわかると、ほとんどのドイツ方々が、英語に切り替えて助けてくれました。一方、留学に参加している東大の学生10人ほどで集団行動をとっていると、「ニーハオ~、ニーハオ~」と、ちょっと怖そうな集団から挑発される事が、何度かありました。移民問題にも積極的なドイツにおいても、未だに排他的表現を公道で発する人々がいるという事に驚かされました。と、同時に自分が排他される側に立ってはじめて、共通理解の大切さ、教育や教養の必要性を強く感じました。

 

「この惑星の住人は……」のあの視点が大事

瀧本 それは日本人どうしであっても同じですよね。日本語での会話であろうと、たとえば世代が違えば異文化交流みたいな世界になっているでしょう。僕と鈴木さんだって結構な世代差がある。

鈴木 誰にとっても、ディスコミュニケーションの可能性はあるわけですよね。

瀧本 だからこの時代、完全なる理解を求めてはいけないと思っています。「宇宙人の視点」が大事。

鈴木 宇宙人の視点、ですか?

瀧本 サントリー「BOSS」の「宇宙人ジョーンズ」。あのCMシリーズの視点ですよ。「この惑星の住人は……」っていう、ある意味で冷めた態度でいないと、世の中理解できない人や物事ばかり。「それは人間としておかしい!」「理解できない!」って思ってしまうと、途端に息苦しくなるので、とりあえずちょっと理解する、くらいの態度でいいんです。そのためには、「ああ、何となくこの人の言っていること、わかる」「知ってる」というタグが必要なんです。タグが0か1か、何かしらの「とっかかり」があるかないかで、環境は全然違ってくる。

 

鈴木 先生がおっしゃった「教養の本質とは、他の考えも成り立ちうる、ということを知ることだ」という言葉をもう一度、思い出しました。教養を持つということは、生きるための知恵を得ることでもあるんだなって。私は今年20歳になり、大人の仲間入りをするわけですけど、新しい地図を見つけた気がします。やっぱり、知らないことを知ろうとする気持ちって大切なんですね。もっと教養を身につけて、いい大人になりたいです!

 

写真=佐藤亘/文藝春秋

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