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佐々木 俊尚
2018/04/09

ロールズが掲げる3つの正義の原理とは

 ロールズの本はけっこう難しくおまけに死ぬほど分厚い。ややこしい説明も多いのだが、それらをすっ飛ばして、シンプルに紐といてみよう。

 ロールズは、正義の原理を掲げている。意訳すると、

 第一に、みんな自由であるということ。
 第二に、不平等は良くないけれども、不平等が許される場合もある。それは、最も不利な人たちが「現在のところ不平等であっても、そのほうが平等であるよりも暮らし向きが良くなるから、不平等でもかまわない」と考えた時。
 第三に、機会の平等が大切であるということ。

 二つめがポイントだ。格差があっても、お金のある幸運な人たちが一生懸命働くことによって、貧困層の人たちを幸せにする結果を生むのだったら、そのような場合だけは、格差は正義にかなっているということ。

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 ロールズのまなざしは、「最も不利な人たち(worst off)」にそそがれている。暮らし向きが、いちばん良くない人たちと言い換えてもいい。つまりは「キモくて金のないおっさん」なのだ。ロールズはこの原理で、弱者は選別されるべきではないと言っているのだ。同時に、上から目線ではなく、キモくて金のないおっさん目線でフェアかアンフェアかを見なければならないと言っているのだ。

自由と平等、どちらを取るべきか問題

 ロールズが正義論を書いたのは、1971年。この時期は冷戦の真っ只中で、社会主義と資本主義がきびしく対立していた。アメリカはベトナム戦争の泥沼に落ち込んで、反戦運動も盛り上がっていた。資本主義の限界が言われ、市場の自由がいいのか、それとも社会主義の平等がいいのかという二極対立で意見は真っ二つに割れていた。

 しかしどちらかが正しいとは言えない。市場の自由は経済を成長させるかもしれないが、格差は放置される。キモくて金のないおっさんは救われない。じゃあ、なんでも平等にすればいいのかと言えば、すべてを平等にしたら競争が働かなくなり、経済は成長しなくなってしまう。それはその後の社会主義の失敗によって証明された。

 だから、自由と平等のバランスを取ることが大切だ。それに対して真正面から答えたのが、ロールズの正義論だった。自由と平等を見事にバランスよくまとめ、自由でもあり、平等でもあるというバランスが可能だということを、彼は正義の原理によって示した。市場の自由は大切だけれども、キモくて金のないおっさんのことも忘れちゃいけないよ、彼らも包摂されないといけないよ、とロールズは説いたのだ。

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