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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『パティ・ケイク$』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

どうして小説を書くのか?

2018/04/15

 わたしは校内暴力の世代です。中学とかほんと荒れてたなぁ……。

 不良グループの中に、めちゃくちゃ口の立つ面白い男子がいた。密かに感心していたところ、あるとき同グループの女子がこう言った。「あいつー、喧嘩弱いんだよ。だからあんなに喋るんでね?」

 なるほど、彼らの世界における“言葉”とは、気持ちを伝えてコミュニケーションを取る道具ってだけじゃなく、先制攻撃のコブシとか、殴られないための防具でもあったのだ。

 当時のわたしは、図書室で本ばかり読んでいる女子。書くことも大好きだった。不良グループの世界からは遠かったけれど、“弱いから言葉を武器にする”ということの意味は、身に染みてわかった。

 さて、この映画は、若く貧しい白人女性がヒップホップスターを目指すという、全編音楽だらけの、苦くて眩しい青春映画だ。

©2017 Twentieth Century Fox

 パティは地元ニュージャージーで働くバーテンダー。あだ名はダンボ(負け犬)。車椅子の祖母と、飲んだくれの元歌手の母を養う日々。

 ある日、彼女の苛立ちや夢が、ラップとして溢れだした。

「血染めのエプロンをつけ成功を夢見るウェイトレス/フェイクな人生にはウンザリ/DJイエスどうか人生をリミックスして/私は素手で戦う」

 そして、彼女は仲間とともにオーディションに乗りこむが……?

 わたしはこの作品を観て、「どうして小説を書くのか?」という問いに対して、なぜか答えたことのなかった本音に、急に気づいた。「怒りがあるからだよ」と。歌手も、ダンサーも、映画製作者も、ランナーも、みんなそうなんじゃないかな。それに、観客の人たちも。音楽も映画も小説も、抑圧からの爆発を生きて前に進むエネルギーに変えるために存在してるんじゃないか、と。

 最初から最後まで痺れっぱなしのいい映画でした♪

INFORMATION

『パティ・ケイク$』
4月27日より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
http://www.patticakes.jp/