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福井の県立高校が全米チアダンス選手権で5連覇できた理由――最強部活の作り方

2018/04/17

習得中の演技を披露してくれた!

 それを思い知らされることになるのは、練習も後半に入ったころのこと。1年生たちが習得中の演技を披露してくれるという。

 衣装に着替え、西日の入る武道場に30人を超える部員たちがずらりと並ぶ。彼女らの視線は筆者ただ一人に注がれている。正直、目のやり場に困った。曲がかかり、振り回されるポンポンの風圧が感じられそうな距離で高校生たちは踊った。ぎこちなさの残る笑顔、上がりきらない脚……それはたしかに未完成だったが、心を揺さぶる何かがあった。

こちらは上級生たちのダンス ©杉山ヒデキ/文藝春秋

 一つには、振付の練習を始めて1カ月にしてここまでやれるのかという率直な驚きだった。先ほどの1年生も「自分って、こんなにできるんだなと思いました」と話していた。部活動という環境が若い力を引き出す現実を目の当たりにした思いだった。

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 強く脳裏に刻まれたもう一つの感慨は、これもまた極めて単純なのだが、高校生の放つエネルギーのすさまじさである。チアダンスという、他者への働きかけが強い競技だったこともあって(それを我が身一つで浴びたこともあって)、10代の弾けんばかりのパワーにはただただ圧倒された。

『最強部活の作り方 名門26校探訪』(日比野恭三 著)
『最強部活の作り方 名門26校探訪』(日比野恭三 著)

 昨今、ブラック部活動という表現がしばしば使われるようになり、その持続可能性には疑問符がついている。日々の授業などでただでさえ多忙な教師に、長時間の部活動指導が任せきりになっている現状は、たしかに改善されなければならないと思う。

「顧問=指導者」という常識に囚われない

 一方で、部活動を高校生活の大切な時間と位置づけ、それによって輝きを得ている生徒たちの姿を見ると、その価値を軽視してはならないとも思う。「顧問=指導者」という常識に囚われなかった五十嵐の手法は、部活動が健全な形で存続していくための一つのヒントなのかもしれない。

 JETSは今年、ある困難に直面した。5連覇中だった全米チアダンス選手権の主催者が方針を変更し、日本の高校の出場を認めず、目標としてきた6連覇がかなわぬ事態となったのだ。

 五十嵐は主催者の異なる全米大会を見つけ出し、これまでの実績をアピール。2月にラスベガスで開催される「JAMZ ALL STAR DANCE NATIONALS」への出場を認められた。舞台が変われば、評価基準もこれまでと同じとは限らない。10代目となったJETSの真価が問われるステージだった。

©杉山ヒデキ/文藝春秋

 結果は――優勝。

 異なる大会を制したことで、彼女たちの実力はより明確に証明されたと言えるだろう。

 踊りを知らなかった福井の高校生たちが、3年後には本場アメリカの観客を興奮させる。この事実もまた、部活動の底知れぬ可能性を示している。

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日比野恭三
1981年、宮崎県生まれ。2010~16年まで『Number』編集部にて編集および執筆に従事。その後フリーになり、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを中心的なフィールドとして活動中。

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日比野 恭三(著)

文藝春秋
2018年4月13日 発売

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