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連載近田春夫の考えるヒット

近田 春夫
2018/04/18

米津玄師は今っぽいけどとにかく手堅い――近田春夫の考えるヒット

『Lemon』(米津玄師)/『パレット』(サイダーガール)

絵=安斎肇

 別段音楽業に限ったことではないが、その時代ならでは/ゆえの人気者というのは必ずあらわれる。

 いわば社会の反映である。

 では、彼らはなぜそれ以前のマーケットには登場し得なかったのか? 要因は様々あるにせよ、テクノロジーの年々の進歩も決して無関係ではないだろう。

 賢明な読者諸兄にはいちいち具体的に述べる必要もあるまいが、新しい楽器やシステムの出現が音楽の傾向や流れに革命をもたらした例は、過去にいくつも散見出来るのだ。

 自身の物心ついてからに限っても、音響の電気増幅、シンセサイザー、デジタル機器などなどが登場する度に、新たなヒーローが誕生していったのを、俺はいまもよく思い出すことが出来る。

 ここしばらくの起爆剤的テクノロジーは、やはり“インターネット”であろうか? ただ、ネットは音楽そのものの考え方や作り方に影響を与えたということ以上に、その取り巻く環境の変化を著しく促進させてきたわけで、それまでに俺が目の当たりにしてきた“革命”とはなにか本質の違う“景色”をもたらす発明だったかもしれないのだが……。

 いずれにせよ、そういった社会/時代の背景と、いわゆる“業界的な成功”とが密接に結びついた関係にある“旬な表現者”の代表格が米津玄師といい切っても、見立てはさほど的外れではあるまい。

Lemon/米津玄師(ソニー)ドラマ「アンナチュラル」主題歌。YouTube再生数5200万オーバー。デジタル配信は発売1週間で75万ダウンロード。

 という訳で――出自やブレークに至る経緯などの“今っぽさ”に関しては、それこそいくらでもネット上にて検索が可能なのでここでは紹介を省くとして――さて今般ロングセラーを誇る『Lemon』であるが、これが聴けば意外なほど作品自体は、それこそオーセンティックな味わいといおうか、jpop界が数十年に渡って築き上げてきた――いまどきの若者のコトバを借りれば――“鉄板”なヒット要素(アピアランス含む)の集合体といってもいいもので、なにしろ手堅いのにはちょっとビックリした。

 すなわち、平成の元号もあとちょいとで終わらんとする世ならではの新機軸、或いは冒険や実験を実感させるような部分はさほどないようにも思えたのであるが、別の視点から眺めるなら、だからこその数字、売り上げ! ということにはなるのかもしれぬ。

 米津玄師とは、いわゆる投稿動画サイトでの注目をきっかけに、あれよあれよという間にその名を、そして作品を、我々が目や耳にせぬ日はないポジションにまで登り詰めてみせた男である。まさしくこの時代以前には生まれることのなかった、全く新しきカリスマといって構わぬだろう。してその表現の着地はといえば、商業的にも大変地に足のついた、クールなものである。

 ネットが音楽に何をもたらしたのか? 俺にはまだそこはよくわからないのである。

パレット/サイダーガール(ユニバーサル)メディアには顔を出さない方針で、MV等ではイメージガールが活躍する。

 サイダーガール。

 こちらもニコニコ動画への投稿がキャリアのスタートとのことであるが、米津玄師と同様、作風は無難だった。

今週の麦の友「ビールの美味しい季節になったね! 乾き物のツマミで久々のおすすめを見つけたよ。カバヤの“ソイジャーキー”っての。黒が基調のもっともらしいパッケージを開けると、形はビーフジャーキーとはまったく違う、なんというかドッグフード状のものが入っていて、味もヌレセンみたいだけどさ」と近田春夫氏。「これがクセになるんですよ」

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