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ベーブ・ルース以降、なぜ二刀流は「不可能」とされてきたのか

ベーブ・ルース以降、なぜ二刀流は「不可能」とされてきたのか

大谷翔平の「チャレンジ」の裏に歴史あり

2018/04/22
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専念すればうまくなる?

 そもそも一つの事柄に専念すれば上達するという考えは正しいのだろうか。大谷が日本ハムでプロ生活を始めた2013年、大多数の評論家の議論は投打どちらを選ぶかで、二刀流を続けないことが前提だった。両方だと、どちらも中途半端になるという主張だ。

 野球の二刀流は、まったく違う世界の二足の草鞋ではない。タレントとして番組を持ちながら週に1度登板するとか、昼は弁護士で夜は野球とかいうことではない。本人に能力さえあれば、野球という競技を総合的に捉えるためには、むしろ両方経験した方がいいのではないか。

 少なくとも、160キロの速球を投げられる選手が、打席で160キロの球に感じる恐怖心は、他の選手より小さいはずだ。だが役割分担が進んだ現代野球は、主要な役割二つを1人の人間に与えようとはしなかった。

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多くの「評論家」の予想を裏切る、圧巻のパフォーマンスを見せている

先発投手はマイナー時代から特別扱いを受ける

 投打で主力となるためには、安定した起用プランが必要で、先発投手でなくてはならない。このハードルが高い。先発投手はチームの浮沈を握っており、マイナー時代から特別扱いを受ける。中継ぎと違って簡単に代えの利かない駒というわけだ。

 優れた才能ほど囲われ、フロント主導のプランで育てられる。個人の希望や現場の意見などで育成プランが変わることはない。つまり大谷のように二刀流が前提で入団しない限り、先発投手が余計な練習をすることすら難しいだろう。

 レンジャーズ傘下のマイナーに所属するアダム・ローウェンは先発投手としても野手としても大リーグ経験があるが、同一シーズンで両方に取り組んだことはない。「自分が入団した時、球団に新しい考えを受け入れる用意はなかった。大谷のおかげで、投打に優れた選手に新しいチャンスが生まれる」と大リーグ公式サイトで期待を口にしている。

「前例のないことを否定できない」

 大谷が日本ハム入りした2013年、松井秀喜氏は二刀流について「これまでほとんどいなかったわけだから、無理だと言うこと自体がおかしい。前例のないことを否定できない」と話し、「常識と思われていることを突き詰めれば、中には覆ることもある」と主張した。

かつては自身もエンゼルスに所属していた松井氏 ©共同通信社

 だが、その松井氏ですら「米国に来る時には、どちらかを選ぶことになるだろう」と予測していた。大谷が米国の「常識」を打ち破るほどの存在になるとは誰も考えられなかったのだ。二刀流を続けた先にどのようなシーズンがあるのかは分からない。歴史の証人として、大谷をただ凝視するしかない。

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