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普通の留学生がスパイに いまアメリカの名門大学で起きていること

著者は語る 『盗まれる大学』(ダニエル・ゴールデン 著)

2018/04/23
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『盗まれる大学』(ダニエル・ゴールデン 著/花田知恵 訳)

 アメリカの大学では卒業シーズンになると、ジョブフェアがキャンパスで開催される。そこにはCIAやFBIも看板を掲げ、他の一般企業と並んでオープンに職員を募集している。

「私が本に書いたのは、それとはまったく違う、ハーバード大学などアイビーリーグの名門大学で隠密に行われている諜報活動です。CIAなどは国務省職員というような虚偽の身分を使って大学院生になりすまし、大学に留学している外国人をエージェント(情報提供者・スパイ)としてスカウトしているのです」

 著者のダニエル・ゴールデン氏は高等教育の分野に長年の実績があるジャーナリストだ。近年、アメリカの大学を舞台に、諜報戦が激化しているという。

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「2012年に発覚したデューク大学で起きた事件の場合、中国人大学院生は端から情報を盗む目的で留学し、その研究室にあった装置の複製を作り、盗んだ情報をもとにして中国で起業し、大成功しています。大学側は彼の怪しい行動にまったく気づいていませんでした。いま、アメリカにいる中国人留学生は30万人ほど。教育の大規模なグローバリゼーションが起きて、留学生が流れ込んできました。大学はオープンな場なので諜報活動の格好のターゲットになっています」

Daniel Golden/ジャーナリスト。ハーバード大学卒業。『ウォール・ストリート・ジャーナル』ボストン支局副支局長時代に、裏口入学問題の告発連載記事によりピュリッツァー賞受賞。現在、非営利報道機関ProPublica副編集長。

 ハーバード大学ジョン・F・ケネディ公共政策大学院にはアメリカ人が3分の1しかいない。他は外国人留学生。もっともその特徴はアメリカ側にも利益をもたらしているようだ。

「留学生とは言え、多くはその国の政府から派遣されてくる場合が多い。彼らの目的の一つはお互いに人脈を作ること。そこでCIAは虚偽の身分を使ってスパイを送り込み、外国人留学生と親しくなるのです。親日家で有名なジョセフ・ナイ氏のように、政府と大学を出たり入ったりしているアメリカ人もいるので、CIAと気づかれません」

 外国人は留学が終わって自国に戻った後、大学で昵懇(じっこん)の間柄になったアメリカ人から連絡を受けて情報提供を依頼されることがあるが、まさか相手がCIA職員とは知るよしもない。本人も知らない間にスパイになっているとゴールデン氏は言う。

「まさに大学というオープンな教育機関を悪用したアメリカ諜報機関と外国との情報戦です。防ぐ方法はありませんが、大学がその脅威に自覚的に対応することで、被害の拡大を抑えることができるはずです」

『盗まれる大学』
アメリカから先端科学を持ち帰る中国人留学生のなかには、剽窃に手を染めて成功する者も。キューバへ共感をもつ学生に、同国はスパイ勧誘を積極的に行い、政府やシンクタンクへ就職させている。かたやCIAも、留学生たちに情報提供の誘いをかける。アメリカ名門大学を舞台にした、知られざるスパイ大作戦。

盗まれる大学:中国スパイと機密漏洩

ダニエル ゴールデン(著),花田 知恵(翻訳)

原書房
2017年11月22日 発売

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普通の留学生がスパイに いまアメリカの名門大学で起きていること

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