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連載春日太一の木曜邦画劇場

三船演じる素朴で温かい車夫の人情と恋に落涙!――春日太一の木曜邦画劇場

『無法松の一生』

2018/04/25
1958年作品(108分)/東宝/2500円(税抜)/レンタルあり

 三船敏郎の生涯を追ったドキュメント映画『MIFUNE:THE LAST SAMURAI』が五月に公開になる。それに合わせてのトークイベントに出演させていただくことになり、先日、三船の出演作をまとめて観返した。

 そこで気づいたことがある。三船の魅力というと、多くの方が思い浮かべるのは黒澤明作品に代表されるワイルドな躍動感だろう。あるいは、戦争大作映画などで組織の長を演じる際の重厚感を挙げる人も少なくないかもしれない。

 だが、そうした迫力ある芝居を目にしてしまったがために見落としてしまう魅力が、実はもう一つある。

 それは、たとえば『七人の侍』での、敵が来襲した時の「来やがった、来やがった!」と嬉しそうに飛び跳ねる場面や、赤ん坊を炎の中から救い出して泣く場面に代表される、感情豊かな人間臭さだ。その感情のおもむくままに動き出す様には、どこか子供じみた可愛らしさが感じられた。

 今回取り上げる『無法松の一生』は、まさにそんな三船の魅力が凝縮された一本だ。

 稲垣浩監督がかつて撮った名作を自らの手でリメイクした作品で、明治・大正時代の小倉を舞台に、三船扮する無学な人力車夫・無法松と、高峰秀子扮する帝国軍人の未亡人、彼女の息子の少年との触れ合いが抒情感あふれるタッチの中で描かれていく。

 そして、本作での三船が実にチャーミングなのだ。普段は喧嘩っ早い暴れ者なのだが、少年に対しては父親代わりのように接する。仕事そっちのけで凧糸を結んでやる時のほのぼの感、らっきょうを食べさせてやる時の大らかな笑顔、銭湯で戯れる時の楽しげな姿――いつも素朴で温かみのある表情をたたえ、人情味豊かな一面が映し出されていた。

 それだけではない。思春期となった少年に邪険に扱われた時の寂しげな横顔、未亡人に長年の恋慕を抱えながらも何も言えない悶々とした姿。大きな体躯を小さくかがめ、いかつい面相に感情を押しこんでいる様も、たまらない。

 そんな人情味を終始見せてくれてきただけに、終盤になって自らの道ならぬ恋心に苦しみ、嫌悪し、ボロボロになっていく姿には悲しく迫ってくるものがあった。

 本作の他にも、『宮本武蔵』シリーズや『風林火山』。情緒的な演出を得意とする稲垣は、たとえ英雄的な役柄を演じる際にも、三船にどこまでも人間臭さを求めた。人情味、恋心……。スターとしてのイメージを確立していく中で落とされていった要素を拾いあげようとし、三船も見事な演技でそれに応えていった。

 この機会に三船の魅力をぜひ再発見していただきたい。