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連載THIS WEEK

井上 久男
2016/06/17

迫るゴーンの野望
鈴木修会長が引退できない理由

source : 週刊文春 2016年6月23日号

genre : ビジネス, 企業

38年前、社長に就任
Photo:Kyodo

 軽自動車大手スズキの鈴木修会長(86)が8日、燃費データ不正問題の責任を取り、最高経営責任者(CEO)職を返上すると発表した。ただ、代表取締役会長は続投し、「私は逃げるのではなく、反省をしながら健全な企業に発展させられるようにバックアップしていく」と説明した。

 CEOの後任には長男で現社長の鈴木俊宏氏(57)が就く見通し。ケジメをつけた形のCEO返上だが、実質的な経営トップは修氏のままだ。ここに今のスズキの苦境が現れている。

 イメージダウンでスズキの5月の軽自動車販売台数は前年同月比で15%減少。経営トップに大きな責任があることは明白で、イメージ一新のためにも高齢の修氏が全責任を取ってすっぱり引退するのが筋だが、そうは簡単にいかない事情がある。

「独裁の後は『チームスズキ』による集団指導体制と修氏は公言していますが、経営者として線が細い俊宏氏ではチームを引っ張れないことを修氏は見抜いている」(スズキ担当記者)

 さらに、ここにきて自動車業界再編の流れが風雲急を告げてきた。同じく燃費データの不正を行った三菱自動車は株価が急落。そこに、カルロス・ゴーン社長率いる日産自動車が34%を出資して、傘下入りが決まった。スズキにとって他人事ですまないのは、ゴーン氏の野望があるからだ。

「野心家のゴーン氏は日産・ルノー連合を販売規模で世界1位にして、それを花道に勇退するつもり。次に狙うのがスズキ」(アナリスト)

 三菱を傘下に収めることで、日産・ルノー連合の世界販売台数は約959万台に達し、約1015万台を売る世界トップのトヨタ自動車の背中が見えてきた。そこに286万台のスズキが加われば、完全にトヨタを抜き去ることができる。特に、将来の成長市場と目されるインドに強いスズキはのどから手が出るほど欲しい相手だ。

「狸親父」と言われ、海千山千の経営者である修氏ならば「こうした流れは敏感に感じ取っているはず」(同前)。

 スズキが、新たな危機に陥れば、買収リスクにさらされる。そうならないためにも、修氏は経営の第一線を退くことはできないのだ。CEOを退いても、修氏の引退は遠い。