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派遣会社の男性社員に求められる「絶妙な距離感」

『天龍院亜希子の日記』(安壇美緒 著)――著者インタビュー 

派遣会社の社員に求められる「絶妙な距離感」

 同僚でも、ましてや深入りする間柄でもない。しかし、派遣志願者と雇用主、双方の希望を尊重しながら最適なマッチングを実現させるには、ビジネスライクなだけでもいられない。そんな絶妙な距離感が求められる仕事をしながら、オフィスでもプライベートでも、身近な人間関係は煮詰まっていくばかり……。

 そんな田町の心の支えが、タイトルにもある「天龍院亜希子の日記」、そして、「堕(お)ちた英雄」元プロ野球選手・正岡禎司(まさおかていじ)の存在だった。

安壇美緒さん 撮影=山下みどり

「田町はSNSに抵抗があって、気軽にフェイスブックやツイッターに参加することができません。だからこそ、天龍院亜希子というかつての同級生が、当時のイメージのままにひっそりとやっているブログを発見したときに、余計にどこかときめくものがあったのかなと思います。いつしか彼女のブログを覗きに行くことが習慣になって、自分の生活にとってなくてはならないものになっていく。実は私も、その気持ちがわかる気がするんです。好きな芸能人や話題の有名人が書いたものより、“普通の誰か”が自分の言葉で綴る等身大の生活には、そこにしかない確かな魅力があるから」

 同じ頃、ニュースでは連日、正岡の薬物スキャンダルが報じられ、田町は胸を痛めていた。正岡の活躍に憧れて野球を始め、球場にも通った田町にとってはいまでもヒーローなのに、世間のバッシングは止まるところを知らない。自分の気持ちを持て余す田町は、ある人にその思いをぶつけ、思いがけない言葉をかけられる。キーワードは「呆れた希望」だ。

 「『希望がない時代』と言われるいま、それでも私たちが縁(よすが)にできるものって何だろうと考えていて。そこで行き着いたのが『呆れた希望』という言葉でした。田町にこの言葉がどんなふうに響いたのか、そこはぜひ本作でお読み頂きたいところですが、少なくとも、不確かで何も頼りにできるものがないと感じていた彼が、ひとと本音で向き合うことを覚え、それまでよりほんの少しだけ生きやすくなっていく過程を感じてもらえればと思います」

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あだん・みお
1986年、北海道生まれ。早稲田大学第二文学部卒業。2017年、「天龍院亜希子の日記」で第30回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。

天龍院亜希子の日記

安壇 美緒(著)

集英社
2018年3月5日 発売

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