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内田 樹
2018/04/30

国民的目標を見失った「エコノミック・アニマル」

内田 経済って結局は人間が動かしているんです。システムが自存しているわけじゃない。生きた人がシステムに生気を供給してゆかないと、どんな経済システムもいずれ枯死してしまう。経済システムが健全で活気あるものであるためには、その活動を通じて人間が成熟するような仕組みであること、せめてその活動を通じて国民的な希望が賦活されていることが必須なんです。だから、「エコノミック・アニマル」と罵られた高度経済成長期のビジネスマンも、ベンツ乗って、アルマーニ着て、ドンペリ抜いていたバブル期のおじさんたちも自分たちが国家的な目標を達成すべく経済活動をしているのだという正当化ができた。「オレたちはただ金儲けしているわけじゃないよ。お国のために戦っているんだ」という大義名分を自分でもある程度は信じていた。だから、マンハッタンのロックフェラーセンターを買ったり、コロンビア映画を買ったり、フランスでシャトーを買ったり、イタリアでワイナリーを買ったりしていたけれど、あれは「われわれは金で欲しいものはすべて買えるくらいに偉大な国になったんだ」と舞い上がっていたんです。

 でも、そういう増上慢も今から思うと「可憐」だったと思います。今の日本には「オレがビジネスをしているのは、日本の国威発揚と国力増進のためだ」と本気で思っているような「お花畑」な企業経営者はいやしません。国民的目標を見失った「エコノミック・アニマル」はただのアニマルになるしかない。金儲けの目標が自己利益と自己威信の増大だけでは、人間たいした知恵も湧きません。何のために経済活動をするのか、その目標を見失ったので、何をやってもうまくゆかず、どんどん落ち目になっている。悲しい話ですよ。

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日本は人口減少社会のトップランナー

――「失われた20年」を経て、いま日本人が希望をもてる道筋とはなんでしょうか。

内田 国民的な目標として何を設定するか、まことに悩ましいところです。ダウンサイジング論や平田オリザさんの「下り坂をそろそろと下る」という新しいライフスタイルの提案は、その場しのぎの対処療法ではなく、人口減少社会の長期的なロードマップを示していると思います。先進国中で最初に、人類史上はじめての超高齢化・超少子化社会に突入するわけですから、日本は、世界初の実験事例を提供できるんです。人口減少社会を破綻させずにどうやってソフトランディングさせるのか。その手立てをトップランナーとして世界に発信する機会が与えられた。そう考えればいいと思います。その有用な前例を示すのが日本に与えられた世界史的責務だと思います。

 これから日本が闘うのは長期後退戦です。それをどう機嫌よく闘うのか、そこが勘所だと思います。やりようによっては後退戦だって楽しく闘えるんです。高い士気を保ち、世界史的使命を背中に負いながら堂々と後退戦を闘いましょうというのが僕からの提案です。

「内田樹が語る貧困問題」に続く
http://bunshun.jp/articles/-/7166

人口減少社会の未来学

内田 樹(編)

文藝春秋
2018年4月27日 発売

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