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内田樹が語る雇用問題――やりたいことをやりなさい 仕事なんて無数にある

「人口減少社会」を内田樹と考える#3

2018/05/07

 人口減少は私たちの雇用環境をどう変化させるのだろうか。「これまでの大人たちの経験則は使い物にならなくなる」時代を前に、内田樹さんは、「仕事はやりたいことをやりなさい」とアドバイスする。世の中に広がる無数の仕事の可能性について目を見開かされる、「人口減少社会」を考えるインタビュー最終回。

前回「内田樹が語る貧困問題」より続く

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AI導入ですべての企業が人件費カットに成功したら

――今後、人口減少により既存のビジネスは再編や転換を余儀なくされる分野も多数出てくるでしょうし、なかでもAIがもたらす雇用へのインパクトは大きく、2030年には日本の雇用者数は240万人減るとの予測(三菱総合研究所)もあります。

内田 AI導入は、少子化以上に社会に直接的な打撃をもたらす可能性があります。アメリカではすでにいろいろなシミュレーションが行われていますが、いつ、どの分野で、どれほどの規模の雇用の変動が起きるかについては、まだ正確な予測は出ていません。製造業が大きく雇用を減らすことは確かですが、高度専門職でも、弁護士の業務の25%はAIが代行するようになるし、医師に代わってAIが診断を下すようになると予測する医療関係者もいます。

©文藝春秋

 企業経営者たちは人件費コストをカットしてくれるならAIの導入を歓迎するでしょう。けれども、すべての企業が人件費カットに成功したら、短期的には利益が出ても、長期的には巷間に貧困者・失業者があふれかえって、購買力そのものが失われる。国内マーケットが縮小して、商品が売れなくなれば、国民経済は立ち行きません。でも、AIを導入する経営者たちはそんなことはどうでもいいと思っている。「こんなこと」を続けていたらいずれ国内市場が消失すると分かっていても、四半期、単年度の利益が上がるならどんどん従業員の首を切ってゆく。彼らには「長い目で見たら」という発想そのものがないからです。現に、少数の超富裕層に世界中の富が集まり、個人口座の残高が天文学的な数字になっている。世界の富豪ランキングのトップ8人の資産が世界の下位36億7500万人の資産合計とほぼ同じです。こんなことを続けていたら、資本主義というシステムそのものが滅亡してしまうということがわかっていて、それでも格差拡大を止めることができない。それは市場には「長い目で見たら」とか「人類全体の福祉を配慮したら」というような抽象的な枠組みでものごとの適否を判断する力がないからです。四半期の収益が増えるなら、何年か何十年か後に世界が破滅的なことになるリスクが高い事業でもためらわずにやる。それが市場の生理です。