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天才肌の発達障害は本当に医学部に向いているのか

『発達障害』岩波明×『医学部』鳥集徹 ホンネ対談 ♯2

2018/04/30
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医学部はあくまで職業訓練校

鳥集 ただ、新設の私立大学医学部の中には大量留年が問題になっているところもあります。そこを卒業した臨床研修1年目の医師に聞いたところ、120人同級生がいたけど、ストレートで国家試験までいったのは40人ぐらいで、最終的に医師になれるのは80人ぐらいではないかと話していました。

岩波 その大学、授業料を目当てに、わざと落とすという噂もありますよね。

鳥集 やっぱりそうですか。私も医学教育関係者から、何度かその話を聞きました。

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岩波 そういう大学もある一方で、昭和大学や順天堂大学は、むしろ学費の負担を減らす取り組みをしています。それによって、いい学生を集めたいんです。ただし、医学のために純粋にやっているだけではありません。大学病院を維持するには、本院や分院も含めて、3000床ぐらいないと維持が難しいそうなんです。だから、大学病院でリーダーシップをとれる人材を育成したいという、経営的な思惑もあると思います。

鳥集 でも、患者側からしても、そうやって全体のレベルが上がるのは歓迎すべきことですよね。ただ一方で、エリート高の生徒たちが、猫も杓子もが医学部っていうのは、私自身違和感をずっと持ってきました。

岩波 結局日本人というのは、一つ「これ」となると、みんなそこに飛びつくようなところがあるかもしれませんね。

鳥集 国家レベルで考えると、ASDやADHDのような気質をもった方というのは、その才能を医療ばかりではなく、たとえば今だったらAI(人工知能)の分野だとか、バイオテクノロジーだとか、色んなところに生かしてほしいと思うんです。

岩波 そうですね。海外だと天才児だけを集めるようなシステムがあると聞きますが、日本もそのようなシステムを作って、飛び級をどんどんやらせると、喜んで挑んでくるASDの人とかいるんじゃないでしょうか。

鳥集 欧米では、そういう天才的な人は医学部に行くのではなく、数学や物理学、天文学、バイオテクノロジーといった、どちらかというと真理を追求する純粋な科学を志向すると聞きました。米国だと、医師になるためのメディカルスクール(医科大学院)は、4年間大学で一般的な教養課程や専門課程を修了した後、手に職をつけるために行くところです。あくまで、職業訓練校なんです。

医師は接客業でもある

岩波 確かに発達障害の人、とくにASDの人は、本来は医師にはそんなには向いていないと思います。医療は接客業的な面もありますから。

医師は接客業でもある ©iStock.com

鳥集 私も20年近く医療現場を取材しているのですが、ちょうど取材を始めた頃に、インフォームドコンセント(説明と同意)の概念が盛んに言われるようになりました。それまでの、医師が患者を教え導くようなパターナリズム(父権主義)が否定され、その代わりに患者さんとしっかりとコミュニケーションをとって、対等とまではいかないかもしれませんが、一緒に治療方針を決めていくという流れに変わってきています。また、患者の権利が強く言われるようになり、患者の利益が尊重されるようになりました。先生も、実臨床でそう感じることがありますか。

岩波 そうですね、やはり一番変わったのが、国立の大学病院でも臨床を真面目にやるようになったところではないでしょうか。

鳥集 つまり、それまでは患者さんを一生懸命診療することはせず、業績を上げるための研究にばかり力を入れていたということですね。

岩波 昔の国立大学病院は、ほとんどろくに臨床をやってなかったですからね。研究の片手間に、仕方なくやってた面がありました。