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連載高野秀行のヘンな食べもの

高野 秀行
2018/05/01

待つこと3時間、「時短」ならぬ「時長」なコソボのソウルフード――高野秀行のヘンな食べもの

※前回「コソボ・アルバニア人の異常なソウルフード」より続く

イラスト 小幡彩貴

 異常なコソボのソウルフード、ミルフィーユ的クレープの「フリア」の続き。

 待つことなんと三時間、ようやく料理が完成した。たぶん20R(ラウンド)くらい塗っては焼いてを繰り返していると思う。女性陣が台所で切りわけ、男たちのテーブルに皿を運んでくると、男たちは「待ってました」とばかりに、がっつく。

 私も食べた。感想は……たしかに美味い。バターも生クリームもこの家で飼っている牛から取ったものだからすごく新鮮だ。だが、これまでに食べたケバブやパプリカの牛乳膜焼きなどの方がよっぽど豪華だし、三時間待って、食事がこれだけとは一体どういうことなんだろう。日本的に言えば、鍋をやると言ってみんなが集まり、でも「締め」のうどんしか食べないようなもんだ。そのうどんはコシがあるしダシもきいていてたしかにうまいが、でも三時間待ってうどんだけって何だよ? という感じなのである。

 みんな腹が空いているから食事は一瞬にして終了。すると、みんなは「あー、終わった終わった」という風に立ち上がった。これでお開きらしい。キツネに化かされたかのようだ。

完成したフリア ©Kiyoshi Mori
完成したフリアを男たちのところに運ぶ ©Kiyoshi Mori
©Kiyoshi Mori

 さて、問題はこの後。日本に持ち帰るのは可能なのか。なにしろ火は通っているものの、スパイスもハーブも砂糖も使っていない。鮮度が命のような食品だ。アヴニも「持ち帰るのは無理」と言っていた。

 だが、アヴニの幼なじみのお姉さんは平然とフリアをラップに小分けにし、新聞紙にくるむと大きなタッパーに入れた。あまりに手慣れた様子なので、もしかしてと思って聞いてみたら、「そう。コソボのアルバニア人は外国に行くときとか、外国から誰かが来たときには必ずフリアを作って持たせるのよ」という。やっぱり、そうか。

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