昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

2018/05/06

 日本はいま、世界有数の長寿国です。その分、認知症の有病率も、世界一高い。だからこそ、日本は認知症への対策が一番進んでいる国でもあり、世界中から注目を集めています。

 特に日本に熱い視線を注いでいるのは、東南アジアの国々です。東南アジアでは、衛生環境の改善などで、社会の高齢化が加速度的に進んでおり、認知症対策が待ったなしの状況です。

 日本ではこれまでも、東南アジアの認知症医療を支援するための取り組みをしてきました。現地の看護師やケア職の人を日本の介護施設などで受け入れ、働きながら訓練を受けてもらって、帰国させる。日本で得た知識を、現地の医療に生かしてもらう試みです。

 ですが、この方法には無駄も多いように思います。日本で介護を学ぶには、「鬱病」や「褥瘡(じょくそう/床ずれのこと)」といった専門用語まで、覚えなければならない。でも、インドネシアやベトナムの人たちが、こんな難しい日本語を覚えたところで、母国では何の役にも立ちません。

 むしろ、日本にいる専門の医師やケア職の人を、現地へ派遣するのが良いと思います。派遣された日本人は、その国の事情を勉強しながら、「日本ではこういうことをやっています」ということを現地の人に教える。その国の実情にあわせて、日本の認知症ケアを輸出するのです。そうすれば、難しい言葉を覚える必要もない。現地の人々もずいぶん助かるのではないでしょうか。

©iStock.com

「認知症の人も私と同じ」

 これからの認知症ケアには、専門職や家族だけではなく、地域の人たちの理解や接し方もとても大切になると思っています。

 高齢者の数が多くなったいまでは、どこの地域でも、必ず近所に認知症の方が何人かいらっしゃるはずです。少しずつでもいいから、認知症とはどのようなものか、みんなが学ぶ。そして、「認知症の人の心は、私の心と同じ。あの人も私と同じように、楽しみたい、幸せになりたいと思っているんだ」という気持ちをもって、本人に接してみる。

 こうして、認知症になっても安心して暮らせる社会をつくっていくことが、これからの日本に求められているのではないでしょうか。

 私はいま、子どもたちに認知症のことを理解してもらうための絵本を作りたいと考えています。海外には、すでにそうした絵本があります。認知症の症状が進んでいくおじいちゃんを目の当たりにした孫が、いろいろな工夫をしながら、一緒に生活していく様子を物語にしたものです。僕はそれを真似して、おじいちゃんのところをおばあちゃんに変えて作ろうとしているんだけど(笑)、なかなかはかどりません。なんとか、今年の夏ごろまでには完成させたいと思っています。

 長らく適応薬がなかった認知症だが、1999年には製薬会社のエーザイが開発した認知症治療剤「アリセプト」が認可されている。アルツハイマー型認知症の進行を抑制する薬だ。長谷川氏は、臨床治験が始まった1989年から治験統括医に任命され、治験を成功裡に導いた人物でもある。

 認知症を根治させるための薬の開発を願う患者や家族は多いだろう。しかし、長谷川氏はいまの新薬開発に対する懸念を口にした。

 かつての認知症は、診断しても、医師にできることがほとんどない病気でした。それが、アリセプトの登場で、アルツハイマー型認知症の進行を遅らせることができるようになった。医師が「一緒に考えていきましょう」と声をかけられるようになったのは、大きな出来事でした。