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かつては聖地、いま魔物、ドラゴンズにとって神宮球場とは

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/05/11

ドラゴンズにとって神宮球場が「魔物」である理由

 ただ、ドラゴンズは事情が少し異なる。ここ数年、神宮球場での成績は際立って悪い。2012年まで5年連続で負け越し、13年に7勝5敗と勝ち越したと思ったら、再び昨年まで4年連続で負け越している。特に昨年は7月25日からの3連戦で10点差をひっくり返されるなど、3試合計31失点で3連敗を喫する悪夢を見た。

 ちなみに昨年まで4年間の神宮球場での成績は14年5勝7敗、15年3勝7敗、16年3勝9敗、17年5勝6敗。その間のヤクルトのチーム成績は15年の優勝を除けば最下位2回、5位1回。ドラにとっては、ほとんどが下位相手の取りこぼしということだ。

 神宮球場はかつてドラの聖地だった。巨人のV10を阻止した1974年は9回に高木の三遊間を抜く同点打で引き分けてマジック2を点灯させ、続く大洋戦ダブルヘッダーの連勝で20年ぶりの優勝を決めた。あの同点打がなければ決着は最終戦の対巨人ダブルヘッダーでの直接対決に持ち込まれ、優勝は微妙だった。

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 99年には宣銅烈が最後の打者ペタジーニを立浪への二飛に打ち取り、11年ぶりの優勝を果たした。宙に舞った星野監督が「ファンの皆さんの辛抱、声援が選手に力を与えてくれた」と涙を流し、スタンドを埋めた中日ファンの声援に帽子を振りながら「ありがとう」と何度も応えていた姿が今でも忘れられない。

守護神として99年のリーグ優勝に貢献した宣銅烈 ©文藝春秋

 神宮球場の魔物がドラゴンズに取り憑くようになったのは、落合監督がナゴヤドーム仕様にチームの野球を作り替えたことが一因だと私は思っている。両翼100m、フェンス高4.8mのナゴヤドームに対し、両翼97.5m、フェンス高最大3.3mの神宮球場では野球の質は異なる。投手が本塁打を必要以上に警戒して不利なカウントに流されていくシーンを何度も見てきた。打者も本能的に長打狙いの打撃となり、スイングのリズムを崩してしまうように思える。

 ただ、本当のプロとはこれらの環境の違いに適応できる選手を指す。魔物とは球場にではなく、勝負の世界で隙を見せた選手に巣くう。

 今季初の神宮球場は2勝1敗と勝ち越した。シーズン最初の同球場3連戦を勝ち越したのは2013年以来のこと。そう、この10年間で唯一、シーズンを通じて勝ち越した年だ。神宮球場を再びドラゴンズの聖地に。今年はこの思いを胸に抱こうと思っている。

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