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ミステリマニア、栗山英樹監督の著書からファイターズの謎を強引に解く

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/05/24

【えのきどいちろうからの推薦文】

 日本ハムは大方針として「元監督」も「現役選手」も起用しません。文春野球コラムをそのような場だと解釈していないからです。在野の新人、青空百景さんをご紹介します。僕が数多(あまた)あるファイターズ関連ツイートのなかから一本釣りしました。北広島市在住の女性のようです。筆名からムーンライダーズのファンであることが窺えますね。読書ブロガーでもあり、好きな作家を聞いてみたら小説は京極夏彦、北村薫、野球エッセイ系では奥田英朗『野球の国』を挙げてくれました。この人は面白いです。

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 突然ですが皆様は『アクロイド殺し』をご存じでしょうか。ミステリの女王アガサ・クリスティーの代表作、未読の方のために詳細な説明は避けますが、殺人事件の関係者による手記という形式の小説です。作中の探偵は、その手記の行間を読み取ることから真相に迫っていくのです。

 あ、ご挨拶が遅れました。こいつ一体何者だとご不審の向きも多いことと存じます。北海道に住まう一介の読書ブロガーなのですが(ただし長らく放置状態)、読書ブログと銘打ちながら金子誠は土方歳三っぽいとか何とかこじつけて強引にファイターズばなしに持ち込むのが常でした。北海道に来てその辺で石を投げれば当たる、平凡なファンの一人です。そんなのがえのきど監督の代打とは、近藤健介の代打に観客が出てくるようなものだと誰よりもまず己が重々承知しているのではありますが、しかしこの選手起用も監督の決断。監督、凡退しても「俺が悪い」と思って下さいね。

すっ飛ばされている監督オファーの経緯

 閑話休題。先日、栗山英樹監督の去年の著書『栗山魂』を何となくぱらぱらやっていたのですが、その時の私は『アクロイド殺し』が原作のドラマ「黒井戸殺し」を観たばかりで、ついでに小説の方も読み直して、余韻にどっぷり浸りきっておりました。その状態で再読したら……あれ、ここだけ叙述が何か変……!?

2011年11月に監督就任した栗山監督 ©文藝春秋

 この本は小学1年生で少年野球団に入るところから始まります。そこから中学生までが第1章、大学生までが第2章、プロで1軍に定着するまでが第3章、現役引退までが第4章と、野球人生の歩みを順々に語り、そして第5章は「まさかの監督就任、大志を抱く」。ここまでの流れからいくと、オファーを受けた時の心境などがまず述べられるのかと予想するところなのですが。

 そこはすっ飛ばされてるんですよ。章の冒頭はいきなり2011年11月の就任会見の場面から。《21年の空白を経て、僕はプロ野球界へ戻ってきたのです。》とあって、この次です。《最初にオーナーが挨拶をします。「プロ野球選手としては決して恵まれた身体ではなかったにもかかわらず、ヤクルトスワローズでの実績は猛練習の積み重ねによるものであり、とくにメニエール病とたたかいながらのプレーに、あきらめず自らを厳しく律して練習に取り組む強い意志、姿勢はファイターズに求められる根幹。野球に対する見識の深さ、コミュニケーション力の高さも監督として重要な要件」と、僕に監督就任を要請した理由を説明しました。》

「突然、思ってもみなかったオファーが僕に舞い込んできました」とか何とかじゃないんです。そういう経緯は全部飛ばして、記者会見でのオーナーの言葉だけですませている。『アクロイド殺し』をお読みの方ならお判りでしょう。栗山英樹自身の言葉でその場面を語ることを避けているのです。怪しい。これは明らかに怪しい。

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