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中国潜入取材 僕たちの受けてきた“意識低い系”尋問・拘束を語ろう

とりあえずスパイ扱いされるってどんな国だよ

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「ソーリーソーリー」と中国語ができないフリ

西谷 そういえば2010年に反日デモが起きたときも、四川省綿陽でデモ現場の写真を撮っていたら公安にパトカーで公安局まで連れて行かれました。とりあえず「ソーリーソーリー」とか言って、中国語がまったくできないフリをしたら1時間くらい放置され、それから日本語ができる女性が通訳にやってきた。

安田 2010年だと、尖閣沖で漁船衝突事件が起きたアレですね。YouTubeで海保巡視船の動画が流出した事件もありました。結果的に反日デモも起きたやつ。

西谷 そうです。で、どこから何のためにここに来たのか、デモのことはどうやって知ったのかなどと詳細に聞かれましたが、「旅行者です」、「興味があってちょっと来てみた」と言い続けました。結局、すぐに飛行機のチケットを取って上海に戻れと言われました。後年のキツネ肉のときも「近くの駅まで送るから、そこから高速鉄道に乗ってすぐに上海に帰れ」と言われましたし、中国では「省の外に出る」というのが軽微な犯罪者に対する処遇らしいですね。

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安田 縦割り行政というか、官僚国家・中国らしい話ですよね。「とりあえず俺たちの持ち場から出ていってくれれば、俺たちは責任負わなくて済むからそれでいいや」みたいな。

西谷 そうですね。印象に残っているのは、取り調べが終わったあとに「私は終始、紳士的な扱いを受け、警察官からの対応にとても満足しています」みたいなことが書かれた書類にサインを求められたこと。これも、ある意味で責任逃れみたいな目的もあるのかもしれません。

とりあえずスパイ扱いされるってどんな国だよ

安田 中国で取材って、やりやすいのかやりにくいのかわからないですよね。政治面では尋問や拘束みたいな面倒臭さがあるいっぽうで、現地の人たちのカルチャーとしては、直前に微信(中国のチャットソフト)で取材のアポを送っても「オッケー」みたいなノリで済んだりするし。あくまでも、ビジネスや文化関連の取材の話ですが、この速度感は正直言って楽です。

西谷 ですね。拘束とか尋問みたいな話ばかりしていると怖いんですが、一般人は割とみんなノホホンとしていますよね。あと、「記者」「取材」だと言うとなにも喋らないのに、雑談に応じる人はやたら多い。

安田 そういや、中国って「スパイ」という概念がめっちゃ身近ですよね。足裏マッサージのお姉さんや田舎のタクシーの運転手さんに「日本人だ」と言うと「日本人なのに中国語が話せるなんてスパイか?」、「記者だ」と話してもやはり「スパイなのか?」とか聞かれる。

西谷 どんな国だよって感じですよね(笑)。日本で日本語が上手な外国人とか、海外メディアの記者に会って、二言目に「スパイか?」って聞く人いないですもん。

安田 でも、彼らがそう言う理由は、別に「中国では庶民レベルにおいても防諜意識が高いから」とかじゃないですしね。あまり身近じゃない属性の相手に会ったので、そこから連想した質問をひとまず口にしてみる的な感じ。「俺の地元は青森なんだ」「えっ、じゃあリンゴがおいしいの?」みたいな会話に近いノリで「えっ、じゃあスパイなの?」って聞いてくる。

西谷 あるあるですね。ある意味でめっちゃカジュアルというか、ユルいというか。いっぽうで、「記者」だと名乗っても無事なケースもあります。以前、「北京大学女子大生の処女率チェック」みたいな取材をした際は、「大学生のライフスタイル調査をしておりまして」とか声を掛けて話を聞きましたが、通報されませんでした。

安田 むしろ、こちらのほうが本来の意味で通報してしかるべき案件じゃないですかね(笑)。

北京の夜店で売られている習近平プレート ©iStock.com