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連載桜庭一樹のシネマ桜吹雪

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』――桜庭一樹のシネマ桜吹雪

ドン詰まりの終点の先

2018/05/13

 どんな人の人生にも、“永遠のような一日”がある。たとえば、旅先で見た夢のように美しい夕焼け。いまはいない恋人と過ごした、とくべつな時間。もしくは、最高の一日の終わりに流れ星を見た日とか……。

 もし、なくても、そう言われると、なんだかあったような気がしてくる。

 わたしが映画を好きなのは、そんな“あったかもしれないマジカルな時間”の存在を、不思議な力を使って思いださせてくれるからだ。まるで、今では忘れてしまってるだけで、本当に起こった出来事みたいに。

 さて、この映画は、若く貧しいシングルマザーと幼い娘の生活を通して、アメリカの今を切り取る社会派ドラマだ。

 舞台はフロリダ。夢の国ディズニー・ワールドの敷地のすぐ外に、観光客用の派手な安モーテルが林立している。それらは古び、いつしか低所得者用アパートと化している。六歳の少女ムーニーは、無職のママと二人ぼっち。ベッドとサイドテーブルだけのせまい部屋を、服やお菓子でとっ散らかして暮らしている。

©2017 Florida Project 2016, LLC.

 悪友のスクーティも、ジャンシーも、ママと二人っきりの貧しい子供たちだ。管理人のボビーが、皆の(若いママたちにとっても)父親代わりとして守ってくれている。

 でも、ムーニーを取り巻く状況は、すこしずつ悪いほうに転がっていく……。やがてドン詰まりの終点に行きついた。ママの手も届かないし、いつも助けてくれるボビーの腕まですり抜けてしまう。

 そのとき、思いもかけない相手が、ふいに、魔法のような手を伸ばしてムーニーを助け出した。そして二人の“永遠のような時間”がとつぜん始まって――!

 まるで、なぜか忘れてしまっていた幼いころの大切な記憶みたいな、よい映画でした。わたしはおどろきとなつかしさに打たれて、その人物の横顔に、しばしぼうぜんと魅入ってしまいました。

INFORMATION

『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』
5月12日より、新宿バルト9ほかにて全国ロードショー
http://floridaproject.net/