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連載高野秀行のヘンな食べもの

素材を生かしすぎ! タイのゲテモノ料理がすごい――高野秀行のヘンな食べもの

2018/05/15
イラスト 小幡彩貴

 ゲテモノ系の食品は「何を食べたか」が常に話題とされるが、私の経験では、「どうやって」が重要だ。例えば、中国では虫とか野生動物を容赦なく食べるが、ひじょうに濃い味付けにして、油でしっかり揚げたり炒めたりするので、さほど抵抗感なく食べられてしまう。

 逆に、食べる側にとって厳しいのは素材の容姿、味、食感が全開になっている調理法だ。それをつくづく実感したのは、イサーン(東北タイ)の村へおたまじゃくしを食べに行ったときだ。

 カエル料理はアジア各地にあるが、おたまじゃくしは聞いたことがない。面白そうだと思い、行ってみたのだが、村に着くと「来るのが少し遅かったな」と言われてしまった。カエルが卵を産んでおたまじゃくしが孵化して育つのは五月で、私が到着したのはもう六月だった。

 しかたないので、おたまじゃくしの親(?)である、カエルを食べることにした。翌日、知り合いになったおばさんの後についていくと、彼女は田んぼの中にザブザブと入っていき竹のザルで田んぼの水を片っ端からすくい始めた。

 すると、草や泥に混じって、いろんな生き物がとれるわとれるわ。川ガニ、タニシ、ゲンゴロウ、カエル、フナの稚魚、何かの幼虫みたいなもの……。そして、なんとおたまじゃくしも数匹ひっかかった。すでに手足が生えかけていたが、尻尾はまだある。

 おお、凄いじゃん! と喜んだのも束の間、おばさんは予想外の行動に出た。いちばん美味しそうなカニとタニシを全部捨ててしまうのだ。捨てるものと食べるものを間違えているんじゃないかと思ったが、「こんなのは食べ飽きているから」とおばさんは頓着しない。そして、残りを自分の家に持ち帰ると、軒先で調理し始めた。それを見て私はゲゲッとなった。

 鍋に水とミントのようなハーブと唐辛子を入れただけの水煮だ。しかもオール姿煮。油炒めぐらいはしてくれると思っていたのだ。それどころか、万能調味料のナンプラーさえ入れず、味つけは塩のみ。

水煮。しかもオール姿煮

 鍋に入っているうちはよかったが、皿にあけると、ゲテモノ感がいっそう際だった。全部田んぼで捕まえたときのままの姿をしている。気が進まないながら、私は食べやすいものから順番に一つずつ食べていった。まず小魚は当然問題ない。ゲンゴロウも見た目はゴキブリそっくりだがカリカリして意外にいける。本来の目的だったおたまじゃくしは、骨が感じられず、ちゅるっとしていて、肉は柔らかくて喉ごしもいい。他にない味で、これはわざわざ食べに来た甲斐があった。

 意外に嫌だったのはカエル。唐揚げなら全く違和感ないのに、水煮かつ姿煮のそれを箸でつまむと、まるで生の死体のように、手足と口がだらっと垂れ下がった。皮もぬめぬめとした光沢を放っている。まあ、口にしたら、若鶏のようで美味かったが。

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