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連載THIS WEEK

城山 英巳
2016/07/23

南シナ海支配に国際司法は“NO”
中国はどう出るか

source : 週刊文春 2016年7月28日号

genre : ニュース, 国際, 政治

南沙諸島スービ礁にある中国の灯台
Photo:Kyodo

 オランダ・ハーグの仲裁裁判所は7月12日、南シナ海での中国の主権を全面的に否定した判決を示した。中国が「歴史的権利」と主張し、南シナ海をほぼ囲い込む境界線「九段線」も「国際法上根拠はない」とばっさり切り捨てた。

「裁決は紙クズだ。クズ箱に捨てるか、本棚に置くよう望む」。「完全敗北」を受けた翌日の劉振民外務次官の記者会見は、異常なまでの強気なものだった。

 王毅外相も談話で「徹頭徹尾、法律の衣をまとった政治的茶番」と反発した。中国外交専門家は「これが、今の習近平指導部の雰囲気だ」と言う。判決を前に、外務省や軍、学者らを総動員して対応を検討させた国家主席・習近平も判決がもたらす衝撃の大きさを認識している。

「これは外交問題ではない。主権と体制を懸けた戦いだ」。こうとらえる習は、歴代最高指導者の中でも、最も主権・領土に譲歩を許さず、周辺国を威嚇している。自身の権威と体制の維持のため「中国の夢」「中華民族の偉大な復興」というスローガンを掲げ、アヘン戦争以来の屈辱の近代史を取り上げ、国民のトラウマを刺激してはナショナリズムを煽っている。

 社会の不満が充満し、バラバラになりがちな国民を統率するにはナショナリズムしかないという危機感が強い。

 主権に最もうるさい指導者が、国際法上の主権を失ってしまう――。皮肉な結果だが、それは、習が進めた露骨な強国路線に周辺国が反発したツケであった。

 今後、習指導部は、周辺での軍事演習を続けて主権を誇示しながら、島をリゾート地にする観光戦略も加速させるなど、実効支配を徐々に強める持久戦を取るのではないか。

 モンゴルで開かれたアジア・欧州会議(ASEM)で、李克強首相は「敵」と位置づける安倍晋三首相との会談に応じた。仲裁判決を受けた国際的孤立を恐れたからだが、それ以上に、国際社会に「対話解決」の融和姿勢を宣伝するために安倍を利用するのが得策と判断したからだ。欧州連合(EU)も経済的利益でつながる中国から受けた圧力で動きは鈍い。日米などはそれでも「法の支配」を武器に、習体制の強権阻止へ持久戦で臨むしかない。