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大島 新
2018/05/13

20年目の情熱大陸「ハタチの天才4部作」は“情熱あるある”を超えていたか?

『情熱大陸』最古参の名物ディレクターはこう観た

「情熱大陸」がもう20年か…

「あんな番組を作りたい」とフジテレビを辞めたのが1999年の夏。私は30歳になる直前だった。フリーのディレクターとして、運良く番組に参加できることになったのがその年の暮れ。私は当時の「情熱大陸」のスタッフの中で、最も若いディレクターの一人だった。

ドキュメンタリーで若い被写体を撮ることは難しい

 それが今では、ほぼ最古参になってしまった。長く番組に携わってきた作り手の立場から見たこの番組の魅力は、演出の自由度の高さだ。フォーマット(決まり事)は、葉加瀬太郎さんの音楽と、ナレーターが窪田等さんであることぐらいで、取材や編集の方法論は、基本的に現場のディレクターに委ねられる。それだけに、番組が面白くなるかどうかは、被写体の魅力と、それを伝えるディレクターの取材力・表現力が極めて重要だ。

 この4月、番組は「20周年記念4週連続シリーズ ハタチの情熱」と銘打ち、20歳の4人の若者を取材した。この4本を、ディレクター目線で評したい。

 大前提として、ドキュメンタリーの世界では、若い被写体を撮ることは難しいと考えられている。その理由は、若くして世に出た人物は才能に恵まれ過ぎていて、一般の視聴者からすると感情移入がしにくいこと。そして人生経験の少なさから、その人物が言葉を持っていない場合が多いこと。つまり、彼らの業績に比べてインタビューが面白みに欠ける、というケースが多いのだ。だから、今回のシリーズはチャレンジングな企画だなと感じた。自分ならどうしただろう……と思いながら、4本の番組をじっくりと観た。

24分の番組内で、15分後にインタビューが始まった意味

4月8日放送 「新体操選手 皆川夏穂」

 言葉の少なさを逆手に取ったような演出で、被写体の人間性を浮かび上がらせていたのが、「新体操選手 皆川夏穂」だ。なにしろ、正味24分間の番組の中で、まともなインタビューが出てきたのは始まって15分ほど経ってから。では言葉の代わりに何で皆川選手のことを表現したのか。それは「表情」だ。辻陽子ディレクターは、何とも言えない愛くるしい笑顔の皆川選手をずっと見せ続けたあとに、ロシアでの練習で、自分の演技がうまくいかない時のイライラした表情を長いカットで提示した。ロシア人の怖い女性コーチに叱責された時には、彼女の顔は分かりやすいほどに歪んでいた。そこに、新体操という競技でトップを走る皆川選手の負けん気の強さを見た。一方、やや物足りなさを感じたのは、皆川選手の孤独についての表現だ。中学を卒業してから単身のロシア暮らし。一人きりの練習、一人きりのランチ。唯一の楽しみである「三代目J Soul Brothers」のビデオを観る彼女。ハタチで世界と戦うアスリートの孤独感を、撮影方法も含めて、もう少し工夫して見せて欲しかった。

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