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森 功
2018/05/15

前川喜平氏を呼びつけた首相補佐官の正体――「官邸官僚」の研究

霞が関の常識を覆す“新型官僚”が跋扈している

genre : ニュース, 政治

幅広い政治家人脈

 だが、やがて省内で次官の目のない和泉が、再び浮上するきっかけが訪れる。09年7月のことだ。福田から首相の座を譲り受けた麻生太郎には、もはや政権を維持する力がなく、民主党政権誕生の前夜といえた。そんな折、和泉は都市再生本部から地域活性化統合本部に改称された組織の統合事務局長に就任する。国交省の別の元同僚はこう分析した。

「このとき誰が和泉さんを引っ張り上げたのか、そこはいまだ不明ですが、彼は民主党人脈もかなりありますからね。異例中の異例人事なのは間違いありません。都市再生本部や地域活性化統合本部の歴代事務局長は事務次官級のポストで、それまで旧建設省事務官出身の審議官が就いてきた。技官の中でも格下の住宅建築技官で事務局長になったのは、和泉さんが初めてです。彼の幅広い政治家人脈がものをいったのはたしかでしょうね」

 09年9月、予想された通り総選挙で自民党が大敗し、民主党政権が誕生した。和泉は政権が移っても、そのまま内閣官房の地域活性化統合本部にとどまる。ここから自民、民主という2つの政権に跨る異質の官邸官僚として、本格的に歩み出したといえる。

総選挙の結果、民主党の鳩山政権が発足した ©共同通信社

 周知のように民主党の鳩山由紀夫政権は、小泉政権時代の新自由主義政策に異を唱え、次々と政策を変更していく。なかでも構造改革特区構想の見直しは、鳩山政権の重要課題だった。特区の実務を担ってきた和泉はそこに直面する。

 その一つが、株式会社による高校経営問題だ。教育の自由化という旗印の下、小泉政権下で進められてきた特区構想である。前文科事務次官の前川が振り返った。

「株式会社立学校はほとんどが構造改革特区で認められた広域通信制高校で、一般の高校をドロップアウトした子どもたちが入学して高卒資格を取っていくというパターン。少子化で高校生の数が減っている中、通信制高校の生徒数だけは微増していますから、それはある意味、社会的な役割を果たしているといえます。しかし問題は株式会社立高校の中身です。生徒にろくすっぽ勉強させず、極めて安易に単位認定をして卒業させちゃう。あちこちで問題を起こしていました。このタイプの学校は米国にたくさんあって、ディプロマミル、卒業証書発行工場というのですが、要するに学費さえ払っていればいいという利益主義です」

幽霊生徒でぼろ儲けしていた学校も

 民主党政権は構造改革特区による株式会社立学校問題に対し、改めて評価に乗り出した。特区での規制緩和を全国的に広げていいものかどうか、問題が大きければ制度そのものを廃止すべきだ、という審査だ。

「この株式会社立学校特区評価の担当が和泉さんだったのです。和泉さんの下に財務省や経産省から来た役人がいて、その人たちが主導して評価委員会を運営していきました。われわれ文部科学省の立場としては、株式会社立学校は非常に弊害が大きいから廃止すべきだと主張しました。その証拠をたくさん集め、評価委員会に意見を出すにあたっては、平野(博文文科)大臣の了解までもらっていました。大臣も、廃止すべきだと言い、いっとき評価委員会は廃止に傾いたんです」(同前)

平野博文文科相(当時) ©文藝春秋

 株式会社立の通信教育高校は4年制で、国から学校に対して生徒ひとりあたり年間12万~30万円の就学支援金が出る。それを悪用し、名義を貸してくれる父母に謝礼を支払い、幽霊生徒でぼろ儲けしていた学校もあった。そんな教育特区の廃止は当然に思えるが、そこへ立ちはだかったのが和泉だったという。

「瀬戸際まで来たとき、和泉さんが平野大臣に直訴したんです。大臣から直に聞きましたが、和泉さんは『廃止すべきだというお考えはよく分かるので将来的には廃止しますが、いきなり廃止すると各方面で摩擦が生じる。だから、段階的にやったほうがいい』と説き伏せたそうです」

 当の平野はこう答える。

「教育特区ではだめだというのは、私の持論でしたのでね。文科省としても放置できない。それについて和泉が突然、会いたいと言い出して大臣室に訪ねてきたんです。彼は昔からの付き合いでもあるし、構造改革を推進している立場ですから、面と向かって『止めましょう』とは言わなかったけれど、終焉させる方向については同意してくれた。文科省としても、生徒がいるので卒業させなければならないし、すぐに廃校にはできない。それで学校法人に転換してもらったり、経営を変えて継続してもらったり、ソフトランディングさせざるをえなかったんです」

 むろんすぐに制度を廃止する必要はないが、期限を設けて制度変更することは可能だ。前川はこう指摘した。

「平野大臣は、和泉さんから『最終的には廃止します』という言質をもらったと聞きましたが、結局、口約束だけなんです。その後いつ廃止するという条件もなく、今もこの約束は果たされていません」

 株式会社による学校経営制度は廃止されることなく、今もある。それでよしとしていいのか。従来の学校法人による私立の学校経営だと、文科省の監督が届きやすいが、株式会社立学校だと、株主の意向が反映されるため、営利目的の教育に歯止めがかかりにくい。そこに問題の根っこがある。

 文科大臣経験者の平野もその一人だが、和泉は民主党議員にも幅広い人脈を誇る。野田佳彦政権時代に幹事長を務めた輿石東なども飲み仲間だという。

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