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前川喜平氏を呼びつけた首相補佐官の正体――「官邸官僚」の研究

霞が関の常識を覆す“新型官僚”が跋扈している

2018/05/15

スーチーとのパイプ役

 自公が名護市長選に大勝して間もない2月22日、那覇市内のホテル「沖縄かりゆしアーバンリゾート」で「沖縄の可能性と稼ぐ地方創生戦略」という経済セミナーが催された。主催は前沖縄副知事の安慶田(あげだ)光男が代表理事を務める「沖縄経済懇談会」だ。そこに特別講演者として招かれたのが、和泉洋人である。

 安慶田は基地反対派の翁長の側近として知られてきたが、昨年教員採用の口利き事件で退職した。そこから翁長と袂を分かち、こうした経済セミナーを開いてきたわけだが、和泉が講師として招かれたのは去年に続いて2度目である。セミナーの際は、いつも菅から祝電が届く。

 その様子を知るため当日のセミナーに参加してみた。開始予定の午後5時前、ホテルの会場に和泉が姿を現した。すると、小走りで安慶田が和泉を出迎え、沖縄の経済人に紹介してまわる。知事側近として基地問題であれほど反目していたのが嘘のように、2人は笑顔で接していた。

 沖縄の政治家の心情は読みづらいという。半面、和泉にとっては、安慶田やその周囲の経済人とのパイプ作りは、来る秋の知事選における打倒翁長に向けた選挙戦略に違いない。

 この日のセミナー終了後、会場で当人に改めて取材を申し入れた。それまでも、再三和泉本人に話を聞きたいと申し込んでいたが、「スケジュール調整ができない」などと断られ続けていたからだ。だが本人に直に掛け合っても、「忙しいので取材は無理」と逃げ回る。その後文書で内閣官房に質問を送っても、回答すらしなかった。

 同じ東大卒のキャリア官僚でありながら、「天井は局長」と建設省の入省当初からいわれてきた和泉は、ある意味のコンプレックスをバネにここまで昇りつめてきたといわれる。いまや最強の官邸官僚と評判の和泉は、まさに神出鬼没、安倍政権のあらゆる重要政策に首を突っ込んでいるといって差し支えない。

©文藝春秋

 地球儀外交を売り物にしてきた安倍が、最も力を入れてきた東南アジアとの交渉にも、和泉が傍に寄り添い、インド首相のモディやミャンマー国家顧問のスーチーの直接窓口として、パイプ役を果たしているという。インドネシアの新幹線売り込み競争で中国に敗れたように、必ずしも実績があがっているとは言い難いが、菅の代理人としての政権内の信頼は群を抜いている。

国民の従僕たる官僚が、国民の選良たる政治家に仕える

 そんな和泉の力の源泉は、やはり人事の動かし方にある。

「国交省では大臣に対する国会レクでも、法務、建設、運輸という3つの分野の次官候補がそれぞれおこなう。その三頭立てから次官が選ばれていく慣習がありますが、和泉さんはそれをえらく嫌っていました」

 国交省のある元法務事務官はこう言った。

「最近でいえば、16年6月の事務次官人事。土木系の徳山日出男次官の次が東大法学部卒業の西脇隆俊さんで決まりと見られ、朝日新聞もそう報じていたが、和泉さんは法務系に仕切られては困ると考えたのでしょう。『国交省の人事は法務系のOBが牛耳っていて、西脇に決めそうだ。いまだOBが介入するなんてけしからん』と菅官房長官に直訴したと聞きました。それで、実際に人事がひっくり返ってしまい、結果的に朝日の記事は誤報となったのです」

国土交通省 ©文藝春秋

 あげく、徳山の後任次官には、旧運輸省系の武藤浩が決まった。政治主導のトップ人事だと霞が関で評判を呼んだという。

 森友・加計問題が安倍政権や国会を揺るがせている中、官邸主導で官庁の幹部人事を決める内閣人事局の存在が話題になった。強大になった官邸の権力が霞が関の官僚を震えあがらせ、行政を歪めているのではないか。そんな指摘がなされてきた。

 国民の従僕たる官僚が、国民の選良たる政治家に仕える。それはひとつの官僚のあり方に違いない。が、権力と同化した特定の官僚が国民不在の恣意的な解釈で政策の舵をとるとなると、話が違ってくる。安倍一強政権には、そんな行政の歪みが透ける。

(敬称略)

※「文藝春秋」では2018年5月号よりノンフィクション作家・森功氏による『「官邸官僚」の研究』を連載中。6月号の第2回では、“総理の分身”とも呼ばれる今井尚哉首相秘書官を取り上げています。今井氏の独占インタビューも同時掲載。

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