文春オンライン

山口達也問題から「アルコール依存症」という地獄を考える

「いろんな病院に診断を求めても依存症とは出なかった」が……

2018/05/15
note

「地獄を見たければ、アルコール依存症者のいる家庭を見よ」

 アルコール依存症者は仕事で失敗を繰り返して、失職してしまう人が少なくありません。また、家でも暴言、暴力を繰り返し、仕事をしないのに酒に金をつぎ込むので、多くの家庭が経済的に困窮します。依存症者を支える家族も巻き込まれ、精神的に追い込まれたあげく、家庭が崩壊してしまうこともよくあります。「地獄を見たければ、アルコール依存症者のいる家庭を見よ」(全日本断酒連盟ホームページより)という言葉もあるくらい悲惨なのです。

 アルコール依存症者が回復するには「断酒」、つまりお酒をきっぱりやめることが不可欠です。そのためには、専門医療機関で治療を受けるとともに、各地の「断酒会」などの自助組織に参加して、同じ依存症者たちと励まし合いながら、断酒を一日一日続けていくしかありません。

 しかし、職場でアルコール依存症だと思う人がいたとしても、なかなか本人に専門医療機関を受診するよう言えないのではないでしょうか。城島茂も山口達也に対して、「もう大人なので、注意することもあるけれど、あえて言わないこともありました」と語っています。この心情は、私もよくわかります。

ADVERTISEMENT

 ですが、本人や家族を救うためにも、このままではダメだと思うのです。ジャニーズ事務所ほどの大きな組織であれば幹部だけでなく、マネージャーをはじめTOKIOを運営する部門のスタッフがたくさんいるはずです。彼らが山口達也の飲酒癖について以前から知らなかったことはあり得ないでしょう。

©文藝春秋

 所属タレントを守るだけでなく、ファンや社会に対しても重大な責任を持つ組織として、アルコール依存症が疑われるタレントがいたら専門医療機関を受診させたうえで、「断酒するまで、ライブや番組には出演させない」くらいの強い態度で臨むべきだったのではないでしょうか。それができていれば、仕事を失わずにすんだだけでなく、強制わいせつの被害だって、未然に防げたかもしれません。

本人が依存症だと認めて自ら受診することの難しさ

 もちろん、これはジャニーズ事務所だけに当てはまることではありません。アルコール依存症は「否認の病気」とも言われているので、本人が「アルコール依存症」だと認めて、自分から専門医療機関を受診することはあまり期待できません。暴言や暴力が怖いので、家族が病院に連れていくのも簡単なことではないとされています。

 だからこそ、アルコール依存症を疑われる人がいたら、組織として対応することが重要なのです。もし職場の人たちだけでは難しければ、近隣の精神保健福祉センターや保健所、産業医などに相談して、助けを求めるのも一つの方法です。まずは公官庁や大手の企業で、アルコール依存症者の対応マニュアルを作って、社会に範を示してはいかがでしょうか

 ジャニーズ事務所や大手芸能事務所もぜひ、アルコール依存症による被害の再発防止に取り組んでもらいたいと願います。

©文藝春秋
山口達也問題から「アルコール依存症」という地獄を考える

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー