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徹夜本研究会
2016/08/06

最後ににじみ出る怨念の恐ろしさは出色

『迷路荘の惨劇』 (横溝正史 著)

source : 週刊文春 2016年8月4日号

genre : エンタメ, 読書

横溝正史の金田一耕助シリーズの代表作といえば『八つ墓村』『犬神家の一族』『獄門島』あたりが定番だが、ディープな横溝ファンが飲みながら話すと、誰もが「じつはあれが好き」と告白する一作がある。『迷路荘の惨劇』だ。

 富士山麓に建つ豪壮な洋館「名琅荘」。随所に抜け穴や隠し戸があるため「迷路荘」と呼ばれる屋敷では、二十年前、当主が後妻をめぐる痴情沙汰で惨殺されるという事件が起きていた。犯人は片腕を切り落とされたまま、逃走した。

 そして今。ホテルとして再出発目前の迷路荘で、当主・古館氏が殺害された。犯人は頭部に重傷を負わせたのちに首を絞め、死体を馬車に乗せていた。直前に謎めいた人間消失事件が起きたことで館に呼ばれていた名探偵・金田一耕助は、犯行の奇妙さに頭をひねるが、やがて密室で殺人事件が発生する。

 なんといっても「迷路荘」の三文字が気持ちをアゲてくれる。おまけに屋敷の地下には洞窟のような地下道が走っていて、屋敷のあちこちに隠された抜け道は、そこに通じているのである。『八つ墓村』でも鍾乳洞の怪奇な冒険が大きな読みどころだった。

 黒いハンチングに黒眼鏡に黒いマスク、そして片腕のない謎の男の跳梁は『本陣殺人事件』を思わせるし、江戸川乱歩のような「怪人」感を放つ。死と残酷の美を中心に独自の発展を遂げた日本の探偵小説の楽しさが“ぎゅっ”と詰め込まれているのである。

 真相はさまざまな思惑が交錯する複雑怪奇なもの。とくに二段構えの解決を経て最後の最後ににじみ出る怨念の恐ろしさは出色で、ああ横溝正史だなあ、という、楽しい戦慄を呼び起こす。(紺)

迷路荘の惨劇 (角川文庫)

横溝 正史(著)

角川書店(角川グループパブリッシング)
1976年6月7日 発売

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