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日テレが難攻不落のフジテレビを追い抜いた壮絶な戦記

吉川圭三が『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』(戸部田誠〈てれびのスキマ〉著)を読む

2018/05/21
『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』(戸部田誠(てれびのスキマ)著)

 まず自分の本の事を書く事を許して頂きたい。私の最初の本はスタジオジブリの小冊子「熱風」に連載し、2014年に文藝春秋より発売された“映画”に関する本だった。その解説文でジブリの鈴木敏夫プロデューサーは「今度はバラエティ番組そのものの歴史を書いて貰いたい」と〆た。

「そうだ、映画や演劇の歴史の本はあってもテレビの歴史の本は少ない」。そして私の出版社詣でが始まる。最初は皆さん「面白そうですね」と言うが、次の打ち合わせに行くとエクセル等で出来た表を手に「テレビ本って売れないんですよね」と来る。だがそのリストにはある種の傾向があった。それはディレクターやプロデューサーが著者で「私はどうやって番組を当てたのか?」という様な事が書いてある。これでは中途半端な武勇伝としか思えない。

 1978年生まれの戸部田誠氏が熱烈なテレビマニアであることは知っていた。若いのにアニメでもゲームでもない生粋(きっすい)のテレビ狂である。ただ、彼の著作の欠点は引用の多さだった。そして今回の本。難攻不落のフジテレビ城を万年3位の日本テレビ軍団が抜いてゆく過程を元社長・萩原敏雄から我々現場の将兵にまで膨大にくまなく取材している。その肉声から生々しい元会長・氏家齊一郎氏の描写、視聴率買収事件まで。

 ついでに言うと登場人物の多くはほとんど無名であるが、大げさに言えばアポロ11号の月面着陸をJ・F・ケネディの宣言からわずか8年で成功させたNASAのチームプレイの物語の様でもある。参謀本部である編成が策を練り、実行部隊が活動する。多少の失敗は許されるが逃げる奴らは跳ね飛ばされる。それは、ある種、年代記・サーガであり壮絶な戦記でもある。

 この本には「フォーマット改革」等の専門的な話も出てくるが、もし読者が苦手なら読み飛ばしても良い。ここにはあの時期の熱い日本テレビに関する良質な情報がギッシリと詰まっているからだ。

とべたまこと(てれびのスキマ)/1978年生まれ。テレビっ子/ライター。各紙誌で連載中。主な著書に『笑福亭鶴瓶論』(新潮新書)『1989年のテレビっ子』(双葉社)『タモリ学』(イースト・プレス)などがある。

よしかわけいぞう/1957年生まれ。テレビプロデューサー、作家。近著は『たけし、さんま、所の「すごい」仕事現場』(小学館新書)。

全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方

戸部田誠(てれびのスキマ)(著)

文藝春秋
2018年5月11日 発売

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