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連載高野秀行のヘンな食べもの

熊本で食べた半ナマのカタツムリ――高野秀行のヘンな食べもの

2018/05/22
イラスト 小幡彩貴

「これまで食べられなかったものはないんですか?」という質問をよく受ける。実際、何かを出されて食べられなかったことは一度もないのだが、躊躇したことは何度かある。あろうことか、そのうち二回は日本でのことで、両方とも「本来は食べ物じゃないもの」だった。

 最初は学生時代、熊本県のある町でのこと。町役場から洞窟の調査を頼まれ、探検部の仲間とともに訪れて数日滞在した。ある日の夕方、洞窟調査を終えた私たちは町の人たちと脇で焚き火をしながら談笑していた。やがて、暗くなり、焚き火を消したら、そこから炭に混じって黒く焦げたカタツムリが出てきた。私がコンゴでゴリラを食べたというような話をしていたせいだろう、町の人たちが「それ、食いなよ」とけしかけた。あまり気は進まなかったが、ゲテモノ自慢をした手前、食べないわけにはいかなくなり、思い切って殻を割って口に入れた。

 味はなんとも微妙。なにしろ焚き火で巻き添いになっただけなので、まんべんなく火が通っていない。よく焼けた部分は意外にもというか当たり前というか、以前、パリで一度だけ食べたエスカルゴに似ていた。ただ、こちらは調味料なし。せめて塩でもあればありがたかったのだが。

 しかし火が多少でも通っている部分はまだいい。半分くらいはほとんど生だった。舌触りはにゅるっとして、噛むと中心部に妙な弾力を感じた記憶がある。生のカタツムリといえば、ナメクジと同じものだろう。思わずウッと来かけたが、素知らぬ顔で飲み込んだ。

レアな焼き加減のカタツムリの味はいかに? ©iStock.com

 熊本の人たちは自分たちでけしかけたくせに、まさか本当に食うとは思わなかったらしい。ひどく驚いて、「吐いた方がいい」とか「薬を飲め」などとうるさくて、閉口した。幸い、その後、胃腸に何も問題はなかった。

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