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日大アメフト部の悪質タックルは、東芝の「チャレンジ」と同じ構造だ

こうして日本型組織は「集団催眠」にかかってゆく

2018/05/19
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残り3日で営業損益を「120億円改善せよ」

 東芝で実際に出されていた指示は「頑張れ」というような生易しいものではなかった。

佐々木則夫氏 ©文藝春秋

 東芝の利益水増しについて調査した第三者委員会の報告書によると、2012年9月27日の社長月例で佐々木氏はパソコン事業の担当役員に対し、同年上期(2012年9月期)の同事業の営業損益を「120億円改善せよ」と命じている。期末まで残り3日の時点で営業利益を120億円も押し上げることなど、まともな手段ではできようはずもない。

 要は「粉飾せよ」と言っているのであり、実際、担当役員は翌日「営業利益を119億円にする」と報告している。

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 これは佐々木氏と担当役員の間で交わされた謀議ではなく、白昼堂々、浜松町にある東芝本社ビルの会議室で、大勢の役員、社員が見守る中で行われた「業務」である。たった3日で119億円の金が降って湧くという摩訶不思議を何十人もの人々が目撃していたのに誰も「おかしい」と言わなかった東芝の役員・社員と、誰が見ても相手の選手生命を奪い兼ねない危険なプレーをしたのにその選手を誰も咎めなかった日大ベンチの人々は、同じことを考えていたはずだ。

「組織(チーム)のためにやったのだから、仕方ない」

日本人が集団催眠にかかる「呪文」

「One for All. All for One(1人はみんなのために。みんなは1人のために)」

 アメフトではなくラグビーでよく使われるフレーズだが、日本の組織ではこの理念が歪んで用いられることがある。

「全社一丸。滅私奉公」

 この呪文を唱えると、日本の会社員やスポーツ選手は集団催眠にかかり、組織のために超えてはならない一線をあっさり超えてしまうようである。

©iStock.com

 アメフトやラグビーのような激しいスポーツでルールを破れば、競技はただの殴り合いになりかねない。市場を介して集めた巨額の資金を用いて事業を遂行する企業において粉飾決算がまかり通れば、市場は騙し合いの場になってしまう。コンプライアンスは、お行儀や世間体の問題ではなく、市場に参加する資格を得るための最低条件である。

 ルールを守れない者は市場からの退出を命じられる。問題発覚後、ほとんどの大学チームが日大アメフト部との試合をキャンセルした。グローバル・スタンダードで見れば東芝もまた、市場に参加する資格を持たない企業のはずだが、日本の市場を司る人々はなぜか名門企業の反則に寛容だ。 

東芝 原子力敗戦

大西 康之(著)

文藝春秋
2017年6月28日 発売

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日大アメフト部の悪質タックルは、東芝の「チャレンジ」と同じ構造だ

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