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「数字に強い」より「カラ元気」がいい――鈴木敏夫が語る「これからのプロデューサー論」

鈴木敏夫×大泉啓一郎『新貿易立国論』対談 #1

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Made by Japan戦略とは

鈴木 「in」じゃなくて「by」。

大泉 ええ。ASEANで日本企業が生産するのが「Made by Japan」。では、日本国内で生産する「Made in Japan」はもうダメなのか、といえば、そうではない。

 というのも、ここ数年で社会が大きく変わったからです。社会のデジタル化が進み、情報の格差がなくなった。これによって「Made in Japan」の製品が、もう一度、売れる可能性が出てきました。

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 このデジタル化は、じつは日本よりアジアのほうが進んでおり、100人あたりの携帯電話の契約数は日本よりカンボジアのほうが多い。その携帯の多くが、中国製の、高性能だけど安いスマホです。この2、3年、スマホがアジア全域で普及しています。

鈴木 スマホで写真も動画も見られる。

大泉 そうです。スマホは新しいショッピング・ツールなんですよ。

 このデジタル化によってビジネスモデルが大きく変わりました。具体的にいえばEコマース(電子商取引)です。私は5年ほど前から愛媛県で、「愛媛のミカンをアフリカに売ろう」と提唱してきましたが、実際にやるとなると、国外Eコマースのインフラが整う前は大変でした。

 まずJAに話を持ち込んで、そのうえ現地のジェトロ(経済産業省の外郭団体)の協力がいる。実際に売るとなると、ミカンを箱詰めして現地へ送り、検疫を通す。そこまでやって、ようやく、ねじり鉢巻きをしてアフリカで売ることができる。売るためには語学も少しは勉強する必要がありますしね。

 それがいまや、FacebookやTwitterなどで現地の有名人が「オイシイね」とつぶやけば、あっという間に国外Eコマースで売れる時代です。

鈴木 すごい時代になりましたよね。

©石川啓次/文藝春秋

いくつもの製品をシステムとして一括で売る

大泉 そうなんですよ。ただ、世界へ売るためには「ストーリー」が必要です。

 愛媛のミカンには、瀬戸内海の温暖な気候の中で、誠実な農家のお父さん、お母さんが丹精こめて育てて……というストーリーがある。同じようにストーリーを持っている産品は日本の中に多くあるけど、その強みをまとめて、きちんとビジネスにするプロデューサー役がいないのです。

 これは工業製品も同じで、とくに海外で日本企業が活動する「Made by Japan戦略」では、プロデューサーの不在がより大きな問題になってくる。

 このところ、製品を単独で売るのではなく、いくつもの製品をシステムとして組んで、一括で売る、という動きが増えてきました。政府が旗をふっている鉄道などのインフラ輸出などが典型です。

 となると、いろんな企業をコンソーシアム(企業集団)として組織して、各社の利害を調整した上で、ビジネスにつなげるプロデューサーが必要です。ところが、その役を担える人材がいない。以前は商社が担っていましたが、いまは商社のビジネスモデルが変わってしまったので、各社をつなげるコーディネーターはいても、プロデューサーがいません。だから上手くいかない。

 そこで鈴木さんに、プロデューサーの機能は何なのか、どうすれば成功するのか、そこをお聞きしたいと思いました。