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「運を呼び込む」努力をする――鈴木敏夫が語る「これからのプロデューサー論」

鈴木敏夫×大泉啓一郎『新貿易立国論』対談#2

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ときには排除することも

大泉 組織の目標を明確にして、実現を阻害するメンバーはプロデューサーが取り除く。日本のコンソーシアムは、それが出来ない。

鈴木 この点は厳しくやります。あるとき徳間に呼び出されたこともありました。「他社の人事に口を出すな」と。その場では「分かりました」と徳間に答えましたが、そのまま排除しました。そうしないと失敗しますから。

 本当にいいメンバーになるための努力はしてきました。

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大泉 そこですね。うまくいっていないコンソーシアムをみていると、参加企業がエース級の人材を出さない。ときに出てきますが、様子見ばかりで、親会社に他社の動向を報告することしか考えていない。    

 お話をうかがって感じるのは、強いリーダーシップを発揮して、メンバーの出入りをきちんとコントロールする。これがプロジェクトの成功には必要だということですね。

大泉啓一郎さん ©石川啓次/文藝春秋

ズルをしないことが上手くいく秘訣

鈴木 そこは真面目にやりました。第一作の『ナウシカ』のときから、他の映画より多くの製作費をかけて作ってきました。それだけに、みんながプラスにならないと信頼を失ってしまいます。失敗するわけにはいかないのですよ。

 本来、僕は主体的な人間ではないので、みんなを引っ張っていくようなタイプではありません。でも色いろな会社の人が集まることによって、自分の中に責任感が生まれ、それで頑張ることができたのです。これが自分たちだけだと、上手くいかなかったかもしれません。これは大きかった。

大泉 一種のお祭りにして、みんなの生産性を上げていったわけですね。

鈴木 色いろな会社の人が集まって、色いろな努力をしました。私も助けてもらう努力をしました。

大泉 その「助けてもらう努力」とは何でしょうか。

鈴木 ズルをしないことです。そうすると上手くいく。上手くいくと、ますます周囲が協力してくれるようになるのです。

大泉 ズルするとメンバーの信頼を失ってしまう。プロデューサーが心すべきことですね。

#3に続く

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すずき・としお
1948(昭和23)年、愛知県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。徳間書店に入社、「アニメージュ」編集長などを経て、スタジオジブリに移籍、映画プロデューサーとなる。スタジオジブリ代表取締役プロデューサー。著書に『映画道楽』『仕事道楽 スタジオジブリの現場』『風に吹かれて』など。

おおいずみ・けいいちろう
1963年(昭和38年)、大阪府生まれ。1988年 京都大学大学院農学研究科修士課程を修了。2012年、京都大学博士(地域研究)。現在は日本総合研究所調査部の上席主任研究員として、アジアの人口変化と経済発展、アジアの都市化と経済社会問題、アジアの経済統合・イノベーションなどの調査・研究に取り組む。アジア全体の高齢化をいち早く指摘した『老いてゆくアジア』(中公新書)は大きな注目を集めた。著書は他にアジアの巨大都市に着目した『消費するアジア』(中公新書)などがある。東京大学大学院経済学研究科非常勤講師(アジア経済論)も務める。

 

新貿易立国論 (文春新書)

大泉 啓一郎(著)

文藝春秋
2018年5月18日 発売

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「運を呼び込む」努力をする――鈴木敏夫が語る「これからのプロデューサー論」

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