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連載高野秀行のヘンな食べもの

トルコの美形民族が極小餃子マントゥ――高野秀行のヘンな食べもの

2018/05/29
イラスト 小幡彩貴

 挽肉と細かく切った野菜を手のひら大の小麦粉の皮に包んで加熱した料理――つまり、餃子、シュウマイ、小籠包、肉饅頭の類いは食事によし、おやつによし、酒のつまみによし、と三拍子そろった素晴らしい食品だ。

 これら餃子系食品はどこが発祥の地なのか定かでないが、実は東アジアだけでなく、シルクロード沿いに広くユーラシア大陸の西方へ伝わっている。チベットやネパールでは「モモ」と呼ばれる。ネパールではインドの影響でカレーをたれにして食べたりする。

 ロシア料理の「ペリメニ」も水餃子みたいな料理だ。アフガニスタンではヨーグルトをかけたペリメニのような料理を食べたことがある。「マントゥ」と呼ばれていた。中国語のマントウ(漢字では饅頭)に由来する名称だろう。ヨーグルトというのがいかにも牧畜文化である。

 そして、つい最近、トルコでもマントゥが存在すると、中東料理研究家のサラーム海上(うながみ)さんに教えてもらった。作るのはチェルケス人という、もともと中央アジアから来た民族だそうだ。色白で美男美女揃い、トルコではモデルや芸能人として活躍している人が多いとのこと。しかし、この美形民族が作るマントゥ――正式名称「カイセリマントゥ」――は実に珍妙。むちゃくちゃサイズが小さいのだ。

「最高でスプーンに三十個のるマントゥを食べたことがあります」とサラームさん。聞き間違いかと思う。だって、ふつう、餃子や小籠包はスプーンに一個載せるのがやっとだ。でも三十個は極端にしても、スプーンに七、八個はふつうだという。

 なぜ、そんなに小さくするのか。一つには「小さくする=手間をかけていてエライ」という評価基準があるらしい。「うちの田舎のおばあちゃんが作るマントゥはスプーンに四十個ものったんだぜ」と自慢したりするという。

 人類にはアホの遺伝子が埋め込まれており、一つの価値観が定着すると、その社会集団の中ではどんどん過剰な方向に行くことがある。料理で言えば、辛ければ辛いほどいいとか、臭ければ臭いほどいいとか。でも、「小さければ小さいほどいい料理」なんて聞いたことがなく、珍妙過ぎるので、サラームさんのお宅で実際に作り方を教えてもらうことにした。

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