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過小評価される巨人の正捕手、「小林誠司のトレランス」を信じる理由

文春野球コラム ペナントレース2018 テーマ「野球女子的イチオシ選手」

2018/06/08

小林誠司が備える「トレランス」とは?

 ブラック企業みたい、と思われるだろうか。

 冒頭で述べた通り、ブラック企業はだめだ。体が資本、健康第一だ。ルーキー大城、チャンスだ、という考え方そのものは嫌いではない。 むしろ自然だと思う。自分自身も長い間、 そのような環境に身を置いてきた。スポーツではないが、小・中・ 高・大・大学院と少々受けすぎた入試も、 あっちが落ちればこっちが通る、の世界だ。しかし、ひとつのポジジョンを奪い合うことで、もしくは必死に守ることで身に付く強さもある。このまま日本球界の捕手のレベルがずるずると低下するに任せておくのは、私はいやだ。メジャーが全てではないにせよ、捕手で進出したのは後にも先にも城島健司だけだった、というのは、残念すぎる。二刀流が可能なのに、捕手は通用しない。圧倒的不利とされるサウスポーにもかかわらず捕手を務めていた正岡子規が聞いたら泣くだろう。

 子規先生を泣かさないために、君が泣くのだ、小林誠司。

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「いつまでも捕手号泣す蜥蜴消え」今井聖による、野球好きかつ俳句好きには広く知られる一句だ。小林にも号泣したい日はあるだろう。わーっと泣いて、泣きながら分析をして、翌日またマスクをかぶる。小林の心身には、それができる強さがきっとある。

 全試合スタメンマスクが目標と明言しているのは本心だろう。どんなにくたびれようと、休むより試合に出ている方がいい。連戦の負荷に、小林は耐えられる。実際、故障も少なく、打撃やリードについて評論家から素人にまでさまざまに批判されようと、扇の要から逃げ出さない。先日のコンディション不良からも、登録抹消されずに戦列復帰した。いつでも扇の要にいるところが、 背番号22の大きな魅力のひとつだ。さらに、多くのチームメイトが、小林の朗らかさを高く評価する。突然歌いだしたり、いたずらをしかけたりする小林に、笑い、呆れ、感謝している。

いつでも扇の要にいるところが小林の魅力だ ©文藝春秋

 耐性、という意味で用いるつもりで、toleranceを改めて辞書で引いた。トレランスとは、我慢、耐久力、寛容、寛大、雅量、包容力。他にこれだけの訳語が列記されていた。まさに捕手に必要な資質ばかりだ。

 今の小林は、名捕手なのだろうか。名捕手とはこんなに「がんばれ」と言いたくなる対象なのだろうか。やはり、まだ達していないのかもしれない。それでも、そうなる可能性は十分にある。

 誰にも負けないtoleranceを、小林誠司は備えているからだ。

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