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米朝会談、金正恩外交の“成功”からオリックスが学べること

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/06/15
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米朝会談は野球で言えば「交流戦」

*****これは文春野球コラム ペナントレース2018の記事である*****

 これまでとは異なる相手とのこれまでとは異なる舞台での顔合わせ。こうして見ると、アメリカと北朝鮮という体制を全く異にする国家の間での核廃棄を巡る首脳会談は、プロ野球で言えば交流戦のようなものであった事がわかる。そこには、リーグ戦においてのような、幾度も同じ相手と対戦を重ねた事による、豊富なデータの蓄積は存在しない。そして何よりもこの状況では、時に経験豊富なベテランが、経験不足の若手よりも不利な立場に置かれる事が重要だ。長いキャリアの中で多くのデータが残るベテランに対しては、たとえ直接の対戦がなくとも、このデータを利用して対策をある程度立てる事ができる。しかし、そもそもが試合経験が少なく、それ故に情報がない若手に対しては、具体的な対策を立てる事は不可能に近い。メディア露出が多く、その人柄に対しても豊富な情報が存在するトランプに関しては多くの情報があり、北朝鮮側は交渉に際して様々なシミュレーションができただろう。これに対してアメリカが、そもそもが「謎の国」であり、また外交経験が少ない金正恩との直接交渉の為に使えたデータは限られていた筈だ。そしてその情報の少なさこそが、米朝の直接交渉における、北朝鮮の大きなアドバンテージであったかも知れなかった。

 そしてそれは野球においても同じである。だからこそ時に交流戦では、それまでのペナントレースでは調子を落としていた選手が、突如として活躍する事がある。背景にあるのは、情報不足の中でぶつかり合う、交流戦ならではの手探りの戦いだ。そしてとりわけそこで注目されるのは、その年の新戦力の動向だろう。ペナントレースがはじまって2カ月半。開幕当初はそれなりの活躍を見せた新戦力の多くは、同じリーグで対戦を重ねた結果、それなりに分析され、対策を練られ、成績を降下させている。しかし、相手との初対戦となる交流戦では、彼らはもう一度「真っ白な状態」からスタートする事ができる。つまり、彼ら新戦力にとって、交流戦とは「もう一つのデビュー戦」としての意味を持っている。

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とりわけ注目したい3人の若手野手

 そしてここでのオリックスにとっての朗報は、昨年のドラフトが「豊作」だった、という事だ。5勝を挙げているドラフト1位の田嶋は言うに及ばず、既に一軍での試合出場を果たしている選手は、2位のK-鈴木、3位の福田、5位の西村、8位の山足の5名にも及んでいる。

8日のヤクルト戦でプロ初本塁打を放ったルーキーの西村凌

 ここでとりわけ注目したいのは、福田、西村、山足の野手3名である。期待されて入団しながらも開幕を二軍で迎えた福田は、5月に入って調子を上げ、左投手に対して高打率を残し、「左には右」「右には左」というこのチームの強い傾向性に反する形で、2塁のレギュラーの座を大城と激しく奪い合っている。同じ2塁で開幕スタメンを勝ち取った山足は、依然、二軍で好成績を維持しており、いつでもこの福田、大城とのレギュラー争いに割って入る事の出来る状態にある。

 そして、5月29日にデビューを果たした西村である。本拠地球場での登場映像におけるレガース姿を見ても明らかなように、現在一軍で外野を守る西村は、本来捕手登録の選手である。実際、一軍昇格前の西村はウェスタンで.320の好成績を残す一方、守備では18試合に捕手として出場している。逆に、外野手としての二軍の出場実績はNPBのサイトによる限り僅か1試合。補殺0、刺殺3、という数字になっている。

 しかし、一軍昇格後の「外野手」西村は、打率.261、初ホームランも記録し、スタメンでも一時は3番も任される等、期待以上の活躍を見せている。否、それだけではない。昇格後の彼は守備面に不安を抱える吉田正尚等に代わって、度々「守備固め」としてさえ起用されている。アマチュア時代に経験があるとはいえ、二軍で外野を殆ど守っていない選手に、いきなり一軍での「外野手」としての先発機会を与える監督の大胆な采配にも驚きだが、それ以上にその起用に応えて結果を出す選手は見事である。まさかの選手をまさかのポジションで起用する。一見地味に見えるオリックスの隠れた意外性は、交流戦で2位を走るチームの武器の一つとなっている。今年のDeNAもまた、東、神里、楠本といった新人選手が活躍している、と聞いている。「もう一つのデビュー戦」である交流戦の機会を生かして、彼ら「データの蓄積のない選手」の中から新たなスターが生まれる事を期待したい。

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