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「学歴」で分断される日本 「非大学卒若者」の現実を語るときが来た

山口真由が『日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち』(吉川徹 著)を読む

2018/06/04
吉川徹『日本の分断 切り離される非大卒若者(レッグス)たち』(吉川徹 著)

 人種による階層を所与の前提としてきたアメリカ社会に対して、全ての人をなんとなく包含してきた日本の社会も、ついに不都合な真実に向き合わざるをえないと本書は提言する。「学歴」によって我々の社会は分断されつつある。

 同程度の学歴を持つ男女が結婚しがちで、そして、同様の学歴が親から子へと世代を超えて引き継がれていくならば、「学歴」はもはや立派な階級なのだ。この残酷な事実を直視して、それぞれのクラスが抱える問題にアプローチしていくほうが、抽象的な格差是正論よりも現実的だ。うっすらと意識しつつ、口にするのを憚ってきた事実に、本書は単刀直入に切り込む。

「日本の若者」という一括りが決して一様ではないとデータによって明かされるのも興味深い。若者は政治的関心が低いというステレオタイプは非大学卒の若者の特徴で、大卒集団の政治的意欲はさほど衰えていない。また、下降傾向の社会に生きながらも幸福感を持っているという若者像も女性の傾向であって、男性には将来不安も色濃い。大規模調査とその解析によって、我々の感覚的な若者像も、具体的な区分なくして語れないことが説得的に示される。

 なかでも、本書の意義は、日本にも「階級」があるという圧倒的な実感を突きつけてくるところにある。日本の高度経済成長期を支え、そして今、孤立しつつある「非大学卒男性」の実像を、その多くが大卒と思われる本書の読者層は、どれだけ具体的にイメージできるのだろうか。「高卒、中卒を対象にした子育て政策」なんて言われると、私は心の底からぞっとしてしまう。背後にあるエリート意識に拒否反応が働く。

 だが、人を区別してはいけないという美しいが無責任な建前を、我々は今捨て去らなくてはいけないのかもしれない。そうしなければ、現実的な政策を議論できないのではないか――岐路に立つ日本に本書の問いかけは非常に重く響く。

きっかわとおる/1966年島根県生まれ。大阪大学卒業。現在は、大阪大学大学院人間科学研究科教授。社会学者。専門は計量社会学、学歴社会論。『現代日本の「社会の心」』『階層・教育と社会意識の形成』など、著書多数。

やまぐちまゆ/1983年北海道生まれ。東京大学法学部卒業。財務省勤務を経て、ニューヨーク州弁護士。著書に『リベラルという病』。