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DeNA・宮﨑敏郎と『スイミー』のおはなし

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/06/23
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必死に「おおきなさかなのふり」をする小さな青い魚たち

 野球選手はみな一軍での活躍を夢見て練習に励む。若手はなんとかチャンスをつかみ取ろうと躍起になる。レギュラーたちの相次ぐケガや不調で、そのチャンスが今、目の前に転がり込んできた。でも、それはあまりにも急で、あまりにもいっぺんにやってきて、心の準備も周囲のフォローもままならぬまま、ええいと大海原に放り出されたようにも見えた。

 確かに点はなかなか取れない。宮﨑のホームランだけで勝つ試合もあった。だけど、小さな青い魚たちは踏ん張っていた。打てないなら、点が取れないなら、打たれないように、負けないようにと踏ん張っていた。「みんないっしょにおよぐんだ。うみでいちばんおおきなさかなのふりして」とスイミーは言う。半分近く主力を欠くなかで、小さな青い魚たちは必死に「うみでいちばんおおきなさかなのふり」をしていた。スイミーが兄弟たちに教えた「けっしてはなればなれにならないこと。みんなもちばをまもること」に全員が愚直に徹していた。

©文藝春秋

 かつてのベイスターズは、「おおきなさかなのふり」ができなかった。持ち場を守って、一つになって、広い野球の海の中を泳いでいくことができない時期が長くあった。今、三振をして悔しがり、盗塁を失敗してうつむき、いい当たりは正面を突き、スタンドからはため息が漏れる。でもなおこの小さな魚たちは大きな魚の振りをして進んでいかなければならない。いつか本当に大きな魚になる日のためにここで飲み込まれるわけにはいかない。

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「ぼくがめになろう」とスイミーは言った。私はずっと宮﨑がスイミーだと思っていた。だけどそうではないことに気づいた。小さな青い魚たちはそれぞれがスイミーだった。交流戦という、荒れ狂う海の中に放り出されて、でも誰も岩陰に逃げることはなかった。たくさんのものを見て、自分の実力を知り、海の広さを知り、そして今ここで生き抜く術を知った。

 それはおそらくこれからのベイスターズというチームを変えていく。溺れたときにどうするかは、溺れたことのある人間しか分からない。きっと小さな青い魚は大きな青い魚になっても、さらに大きな魚の影を描き出すことに全力を注ぐ。そのときパシフィックの海は、恐ろしい荒海から恵みをもたらす海になる。

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